教育福島0083号(1983年(S58)08月)-035page
刻字作家の制作過程はこの方法と大同小異なので「文字研究→草稿→かご字」の過程を「字入れ」として指導者の裁量にまかせた。
はがき大の桂の板を標準とし、その配当時間によって制作不可能な場合にはその用材を紙などに変更して刻字の制作を進めた。
今回の制作過程で字入れの時間数の差の大きい理由としては、用材に直接文字を書いた場合とカーボン紙など利用して写させた場合とかご字を貼布した場合によるものである。(指導計画と生徒の実作業の参考資料省略)
四 考察
(一)篆刻
生徒作品を吟味すれば確かに時間をかけた作品がよい。しかし単に時間がそれを解決しているとは考えがたい点も見られる。実作業に費やされた時間を見ると文字研究を行ったグループは字入れに要した時間が明確に少くなっている。その他の作業の運刀・補刀・押印などはあまり差が認められない。このことから、文字研究の結果、文字に対する感覚が洗錬され、字入れも苦労なく書けた証拠であり、象刻が書道の一分野であることを物語っている。
グラフから推察できることとしては
1) 制作過程として(標準的)
文字研究(草稿を含めてもよい)↓字入れ→運刀→補刀・撃辺→押印
2)文字研究を除いての時間数は約二〇〇分
3)文字研究に費やす時間は既習教材などの関係で一概にはいえない。
(二) 刻字
刻字の場合、指導時間によって大きく影響される。字形はもちろん布字、美的表現、作品処理などその違いも大きい。
運刀の説明などに長い時間をかけるとその作業量も大になり質もていねいになる。字入れについても同様である
今回の研究では、刻字については長い時間をかければそれなりの効果が作品に表われてくることが明確である。
1)標準的制作過程
文字研究(草稿も含めて)→字入れ
(かご字なども含めて)→運刀→作品処理
2)運刀では、白文(陰刻)や朱文(陽刻)などがあり、どちらとも限定しなかったため具体的な時間が得られなかった。
3)作品を限定して要する時間を研究してみたい。今後の研究題としたい。
五 おわりに
篆刻・刻字の高等学校における標準的な制作過程を設定してみた。これは決してこうでなければならないというものではない。一つの目やすとして考えていただければ幸である。
楷書や行書の教材に臨書や創作などがあるのと同じように篆刻・刻字にも臨刻や◆刻や創作がある。このような方法、手段によって今後古拙や雅味を作品の上に出せるようになるまで指導をしてゆきたいものである。与えられた時間を有効に使うためにも教材にかける時間の大切さをしみじみ感ずるものである。
(代表・福島県立福島北高等学校
教諭 網代 春朋、
生徒作品例 紙による刻字
指導計画と生徒の実作業時数