教育福島0090号(1984年(S59)04月)-006page

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巻頭言

 

価値観のちがい

 

価値観のちがい

渡部順二

 

昨秋、若人の翼の団員とともに総員三十名で、ハンガリーとオーストリアに旅する機会に恵まれた。そのとき、オーストリアの小学校見学と地元青年との交歓のために、ウイーンから南に約五十キロ程行ったベルンドルフという街を訪ねた。オーストリアの教育制度は、義務教育が八年間、六才で就学し、四年間が初等教育で日本のいわば小学校に当たる。この間に進学、就職の進路を決定し、進学コースは八年制のギムナジウムヘ、就職コースは四年制の中等国民学校(いわゆる中学校)へ進むということで、日本の小学校四年に当たるときに自分の将来を決めるということになり、果たしてこの年令で能力判定が可能かどうかという素朴な疑問を抱いたことであった。ところで私たちの訪れた小学校は一九〇九年に建設され、フランツ・ヨーゼフ一世の立会いのもとに開校されたという由緒ある学校で、教室の天井、壁、床にほどこされた絵や彫刻は世界的に有名であるとのことだった。教室ごとにヨーロッパ文化史の一ぺージを象徴するように造られ、一年一組の教室はエジプト文明を壁画に表現し、二年一組の教室はギリシャ建築様式で造られるなど四年間の生活を歴史的文化的環境におくことにより、文化、芸術の感覚を身につけさせるということである。机、椅子も前から後へ、体格に合わせてだんだん大きくしていくなどの配慮がなされているが、当地有数の企業がスポンサーとなっているとのことであった。

青少年センターにおいてこの国の青年達と懇談をした。当面の課題は、欧州中距離核戦力(INF)配備に対する反対運動など平和を守ることだと話していた。オーストリアは、陸続きの国境をもち、国土が幾たびか侵略の嵐に会ったという歴史的背景があるためか、平和に対する彼らの熱望は極めて強いものであり、日常的に平和に慣らされた私たちにとり大変意味があった。

しかし、一方自然保護最優先の価値観を持っており、ダム建設や原子力発電所建設には一切反対で、日本の高エネルギー消費の経済活動を批判していることには驚いた。団員の何人かは熱心に反論をしていた。というのは、オーストリヤの青年たちは、このような主張をしながらも、なお、最大の課題は、失業問題であると言って頭をかかえているからである。

いずれにせよ、国情により価値観も異なるものとなろう。是非の問題ではなく、選択の問題なのであろう。ただ言えることは、どの国も、一長一短あることであり、他国の現状、物の考え方をよく知り、私たちが、今後いかなる選択をするかということである。

ウイーンの森などベートーベン、シューベルトゆかりの地を「田園」や「冬冬の旅」を耳にしての雑感である。

(わたなべじゅんぞう・教育庁教育次長)

 

 

 


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