教育福島0090号(1984年(S59)04月)-007page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

季節の中で…

 

奥会津に伝統工芸の灯を

 

−只見町立只見小学校を訪ねて−

渓谷そして四季おりおりの花々、豊かな野の幸、山の幸に囲まれた里である。

 

奥会津の純農村、只見町は、浅草山の優美な山容、奥深い渓谷そして四季おりおりの花々、豊かな野の幸、山の幸に囲まれた里である。

四月下旬、例年にない豪雪で、まだ一面白銀の世界。しかし、地肌の見える道端には、春の訪づれを知らせるかのように蕗の董が顔をのぞかせている。そんな風景の中、白樺の並木に囲まれて只見町立只見小学校がある。

ここでは、当地に古くから伝わる民芸品を学校教育の一つに取り入れ、児童の豊かな情操の育成に役立てようと努めている。この活動の一方の主役はこの地の「民芸保存会」のお年寄りである。老人たちは奥会津の長く厳しい冬の間、秋に採取したあけび、またたび、藤づる等のった類を材料にカゴ、皿等の実用品をつくってすごす。それらの品は、やわらかさ、独得の色彩で、訪づれる人々に民芸品として賞でられている。

只見小学校ではこの伝統技術を習得するため学校教育の一環として学習活動の中にとりいれ、地域に根ざした教育活動を実践している。若林淳校長は、特設のオープンルームを利用した教室で、「子供達に民芸品の技術を学ばせ、地域の人々との親交、老人とのふれあいをとおして敬老の心情を高めて豊かな心をもつ児童を育てたい」とにこやかに語り、五・六年生の六グループ八十八名の工芸作業を目を細めて見つめておちれた。

材料は、長さ一メートル、太さ半径三ミリメートルぐらいの藤づるで、それをカゴに仕上げていくのである。老人たちは、子どもたちと額をすりよせ、手慣れた手つきでほぐし、のばし、編む過程を、言葉をかみしめながら教えていく。担当の馬場隆介教諭は「この活動は、実は子どもたちのアンケート調査の結果始められたもので、そのせいか子どもたちは意欲的ですよ」と話してくれた。なるほど、子どもたちの目の輝きは明るく鋭い。

お年寄りの中には、八十歳の方もおり、保存会長の吉田貞夫さんは、「みんなこの日を楽しみにしているんですよ。かわいい孫たちですからね」とほんとうにうれしそうに話してくれる。子どもたちも、「楽しい」と充実感をもって答えてくれる。この活動が児童と学校と地域の美しいつながりの場となっていることが感じられる。

二〜三名の子どもたちが「できたぞ」と叫んだ。それは成功に満足した声であり、人間と自然のふれあいが、まだまだ雪深い奥会津の里に高らかに響くかのようであった。

子どもたちが、できあがった作品を宝物のように家にもちかえり、家族とともに会津の里の生活を学びとるだろうことを祈りながら駒止峠を後にした。

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。