教育福島0091号(1984年(S59)06月)-021page

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(一) コミュニケーションの問題

 

意思の伝達、表現と受容の障害は、児童生徒の心情、要求等を具体的に理解することが困難を伴うばかりでなく人間関係を阻害していることも少なくない。このことは、指導者にとっては援助・助言を適切に進められないばかりでなく児童生徒も同様で、自分の気持や意思を相手に十分に理解してもらえない悩みなどが生じることがある。このように子どもと教師や健常児との相互のコミュニケーションがスムーズにいかないことが、一人よがりな解釈により判断が独善的になったり情緒的な不安定をひきおこすなど人格形成上二次的に発達上の偏りとなってあらわれることも多く見うけられる。又、自閉症児のように人と人とのかかわりあいが困難な児童もみられる。

 

(二) 自己理解、行動調整力の問題

 

主障害(視覚、聴覚、精神薄弱、肢体不自由、病弱)に伴い、知覚、運動など認知障害による経験領域の狭さや親の養育態度や子どもにかかわってきた人々のかかわり方によって、二次的に発生する問題も少なくない。特に、親の養育態度は、過保護か拒否的になりやすいといわれる。そのため、世話のかけすぎや制止又は禁止的な接し方が多くなり、子どもの自発性や自立心を育てるかかわり方が欠けることがみられ人格の形成にいろいろな影響を及ぼしていることも少なくない。そのあらわれとして、依頼心が強い、自主性に乏しい、自制心に乏しい、情緒的に不安定等がみられ、自発性、自主性、自律性が身についていないことが多い。

 

(三) 行動規制、生活規制からくる問題

 

肢体不自由児や病弱児に多く見られるが、自力移動が困難な者や車椅子使用者等の行動規制、疾病による食事や運動規制等は、生活経験領域の狭さ、積極的な行動意欲や生活意欲に欠ける等消極的になりがちである。このことは、要求水準の維持や適正な自己理解を阻害していることもあり、自己中心的な判断することもしばしばみられる。

 

(四) 指導の一貫性の問題

 

心身障害児の場合、家庭を離れ病院、施設、寄宿舎等に入っている場合が多く、いろいろな規制の中で生活している。

従って、学校、病院、施設、家庭と児童生徒にかかわる職員間や保護者の間に共通理解がはかられないままそれぞれの立場で指導にあたることもみられ、指導の一貫性に欠けることも少なくない。このことから、心理的動揺をきたし情緒不安や不適応行動を生じる場合も少なくない。又、ホスピタリズムなどの問題を生じている場合がみられる。

 

(五) 進路指導の問題

 

児童生徒の障害の多様化の傾向が進むにつれて、重度・重複障害児の進路指導を含め学校における進路指導の充実は、さけて通れない問題である。身辺の自立、精神的自立、社会生活の自立、職業的自立など障害の程度に応じ予想される生活環境に適応するために必要な自立能力の向上を目標に、小、中、高の各学部において、一人一人の実態に応じてきめ細かい指導ができるよう配慮していくことが必要である。

 

(六) その他

 

児童生徒の中には、中途失明者、進行性筋ジストロフィ等の進行性の疾病児の生きがいの指導、生教育の問題等障害児に直接かかわる問題も多様である。又、一方では、家族、地域社会の障害児に対する偏見や差別の問題、健常児との交流の在り方など問題が山積している。

以上、障害児の生徒指導の問題について述べたが、これらは一般的な課題であり、各学校においては、児童生徒一人一人の実態を的確に把握し、教職員の共通理解のもとに学校の指導方針を明確にして、全体計画を作成し、指導体制を整え、指導目標、内容、方法を明確にして、一人一人の実態に応じた、きめ細かな指導に努める必要がある。

 

三、養護・訓練と生徒指導

 

心身障害児教育においては、児童生徒の障害の状態の改善を図ること、又児童生徒の発達段階に応じて、自己の障害を正しく理解させること、障害を克服していくために必要な基本的な知識、技能、態度、習慣を養うことが、大きな目標である。そのためにもうけられた領域が養護・訓練である。生徒指導を充実させていく上でもきわめて重要である。養護・訓練の指導にあたっては、心身の適応、感覚機能、運動機能、意思の伝達など、心身の発達の全体像を生育歴、病歴、生活環境、専門医の診断、諸検査等の基礎資料、及び日常の観察、調査結果等をもとに多面的に実態をとらえ、個別に具体的目標を設定し、指導内容を選定し指導計画を作成する必要がある。指導内容としては、

A、心身の適応

B、感覚機能の向上

C、運動機能の向上

D、意思の伝達

の四項目の中から具体的指導事項を選定し、養護・訓練の時間を特設するほか、各教科、道徳、特別活動や日常生活指導等との相互の関連を図り一人一人の心身の障害の実態や発達の程度に

 

 

 


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