教育福島0091号(1984年(S59)06月)-042page

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知っておきたい教育法令

 

判例紹介

 

一、はじめに

学校事故における教員や学校側の管理・監督義務については、しばしば論議されるところであり、現場の教師にとって、たいへん関心の深い問題である。

そこで、今回は、放課後の居残り学習中に起きた事故についての最高裁判決(昭和五八・六・七)などをもとに論点をたどってみたい。

二、事実の概要

本件は、小学校第五学年の児童が、放課後、担当教諭の許可を得て教室に居残り、図工のポスターを作成していた際、同級生が飛ばした画鋲つき紙飛行機が右眼に当たり負傷したものであり、しかも担当教諭は、職員会議のためその場に居なかったという事故であった。このことについて、加害児の両親と学校の設置者であるK市に対し、監督上の過失があったとして損害賠償を求めたものである。(民法第七一四条、国賠法等一条)

三、判決の経緯

一、二審とも、原告らの請求を棄却した。

理由として、

1)小学校第五学年程度の年齢に達すれば、経験もあり、相当程度の自律能力、判断能力も備えていること

2)正規の授業終了後、一部児童に居残り実習をさせたことは、なんら不当な措置ではなく、また、居残り児童以外の児童が相当在室していたからといって、なんらかの具体的な危険の発生を予測し得べき特段の事情が認められない限り、児童の下校、帰宅を、その自主的な判断に委ねることは不当な措置とはいえないことなどをあげ、本件については、事前に危険を予測できない突発的な事故であったとして過失責任を否定した。

最高裁もこの判決を支持し確定した。

四、関連する判例

〈例1〉−市立小学校の一年生が、理科の授業中、同級生が振り回した鉄製の移植ごてが右眼に当たり失明した事故につき、加害児及び市の損害賠償責任を認めた事例(浦和地裁判決、昭五七・一二・二〇−確定−)

入学間もなく、規律にもなじんでいない児童に危険な用具を使用させる場合、口頭の注意だけでなく、直接監督する義務があるとした。

〈例2〉−市立小学校における四年生の算数の授業中、同級生がふざけて投げた下敷が右眼に当たり、眼球切断の傷害を負った事故につき、加害児、及び市の損害賠償責任はないとした事例(大阪地裁判決、昭五八・一・二七−控訴−)

授業に先だち、一般的な注意を与えた上、グループ毎に責任者を定めるなどの安全措置をしており、過失はないとした。

〈例3〉−中学校の課外のバレーボールクラブの練習中、生徒間のけんかにより生徒が負傷し、しかも当時顧問教諭が指導についていなかった。

この事故について、控訴審判決(福岡高裁判決、昭五六・三・二七)では、顧問教諭の過失を認め、設置者たる町の損害賠償責任を認めた。

これに対し、最高裁判決(昭五八・二・一八)は、指導監督し、事故を防ぐべき一般的な注意義務を認めながらも、クラブ活動本来の性格を指摘するとともに、同教諭にとって、事故の発生が予見可能であったかという点を問題として原審に差し戻した。

五、おわりに

一般に、教師には児童生徒の保護監督の義務があるが、それは、親権者の監督責任のように、全生活関係にわたるものではなく、学校における教育活動、及びこれと密接不離の関係にある生活関係に限られる。

その上、その義務内容、程度も、教育活動の性格(危険生の有無)、学校生活の時と場所、児童の年齢、知能、身体の発育状況などによって異ってくるものと思われる。

以上のような諸般の事情を考慮した上で、事故が学校生活において、通常生じることが予想され、または予測可能性のある場合に、それぞれの事例に応じて、教師の児童生徒に対する保護監督義務の責任が問われることになるのであろう。

(義務教育課管理主事・遠藤 秋男)

 

 

 


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