教育福島0097号(1984年(S59)12月)-041page

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属している風土が出るかどうかわかりませんが、何か地域的、風土的というか、他に比べれば何か特色はあるかも知れない。しかし、少なくともそれを意識の御旗にして、東北的なものを描きたいのだといって描いている人は、今回の展覧会にはいないと思います。

 

平面の可能性について

 

発言B 近年、いわゆる前衛的と言われている作家、平面を捨てたといわれている作家が、改めて平面そのものの仕事に帰っている場合が多い。そういう意味から、平面そのものの可能性についてうかがいたい。

高山 現代の作家が絵画という問題から、オブジェ、立体に移ってきたという傾向はあったと思います。そこには、空間という問題が非常に大きく展開してきたわけです。平面と立体に対する私の感じ方を言うと、平面については無限大を感じますが、立体は無限大を感じないのです。というのは、立体は非常に現実的な形を提示しています。そこに何かを作ろうとするのは、現実というリアリティーの存在のさせ方に興味があるから、立体をつくっているのだろうと私は思う。平面というのは、そこに何も描いていないものを見ると、我々は無限大を感じる。無限大の中に我々の生きていること、考えていることを表わすというシステムは、古今東西にいろいろなやり方であった訳だけれども、ある時期に、そこにあるリアリティーという問題が何か断絶しただろうと思うのです。最近、平面ということがいわれている訳ですが、人間の住み方の中にも平面という問題が出てきている。それまでは、立体構造の中に人間は住めばいいということだったけれども、今は逆に、人間がもっと平らなところに住めないか、平らなものの認識ができないかという発想の方が強い。そこには、空間よりも平面の強さが圧倒的にでてくるだろうし、壁というものに向かって行く無限大の思考というものが、また新たに出発するのではないかと私は感じています。

田辺 個人的なことになりますが、人間にはカウントする能力がある訳で、私は、今それを造形化できないかと考えている。しかも、立体でそれをやりたいと考えております。

 

地方美術はどうあるべきか

 

発言C 作家として東京から福島に移り住んできて、仕事の上でも、特に風土性というようなものとは関係なくやっていると思っていますが、ただ、自分の仕事の糧となるものというか、仕事の後押しをしてくれるような刺激が非常に少ないという状況があると思います。民間の画廊や美術館との相乗効果のようなもので、地域の美術文化にたずさわる人間がいい作品をつくるのに力になってくれるといいのではないか。そういう意味で、地方で新しい仕事をする人間として、地方の美術文化がどうあるべきかということについてご意見をうかがいたい。

橋本 日本は中央集権の国ですから、地方と中央という構図がある訳ですが私の知り合いの東京に住んでいる画家は、田舎に住んでいる私を非常に羨ましがっております。制作は田舎で、発表は都会でというのが理想ではないかと思っています。そういう意味で、地方、中央ということをあまり意識しすぎなくてもいいのではないでしょうか

高山 依頼心を持ってはだめだということですね。依頼心で出発すると、とんだ被害を受けますから、自分ひとりでやるということの方がいいと思います。ただ現代美術云々ではなく、つくるというものの意味が変わってしまわないように、自分で注意しておかなければならないと思う。

村上 弘前に誰がいる、仙台に誰がいるという形で、自分の仕事を支えてくれるということがあります。個々に、自分にシグナルを送ってくれる作家の個展を見に行くという様なことで、地方の美術文化をどうするかというのではなく、自分が自分とぶつかり合う対象がそこに住んでいるだけで、こちらはこちらなりに結講刺激になるのではないだろうかという気もします。現在ある画廊がどういう性格のものであろうと、そこで自分がものを発表する気になれば、そこが現代美術の現場なのだと考えていいだろうと思います。だから、地元の人と馴染むということばかりではなく、自分を孤立させながら、自分が一番関心のある作家と通信しながら、すぐグループ展をやるという様に短絡するのではなく、自分自身の仕事をつきつめて行くようにすることだと思います。

 

−−結び−−

司会 この様な試みがなされることによって、今までとは違った状況が生まれてくることが望ましいのではないか。それに対しては反省もしなければならない、また、大勢の方から意見も聞かなければならないだろうと思います。

 

熱心に聴く一般参加者

熱心に聴く一般参加者

 

 

 


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