教育福島0108号(1986年(S61)01月)-027page

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随想ずいそう

 

羞 汗

 

羞 汗

星 仁子

 

Aこれらは、使い始めて三年、その時々の思いのあるA子の手作りの品である。

 

B四版用紙がそのまますっぽり入る大型の白いバック、フェルトが擦れて穴のあいてしまった鉛筆ケース、これらは、使い始めて三年、その時々の思いのあるA子の手作りの品である。

 

小学校卒業も真近に迫った三月「先生は、いつも私たちのノートやテストを風呂敷に包んで持ち運び、古びて見すばらしい鉛筆ケースを使っているから…」との手紙を添えて贈ってくれた物であった。

中学校へ入学、七月も半ばになるころ、まじめで成績も良く、学級のリーダーとして活躍したA子の行動が一変したと聞かされ「まさかあの子が」と思う反面、児童理解の底知れぬ深さを知らされた。しっかり育ってくれたと考えていた浅はかさが恥ずかしく身の縮む思いがしたのであった。

そんな矢先、たまたま街角で出合ったA子に声をかけると、友達に目配せながら迷惑そうな応対ぶり。別の友に促されると、逃げるように長いスカートをひらつかせて去っていった。「自分を大切に生きて欲しい」と、手紙で伝えたもののなんの手応えも無く二年の歳月が過ぎていった。

彼女たちは三年になった。修学旅行の土産(コアラの縫いぐるみ)を届けに来てくれた子どもたちが「A子さん変わりました。『N高校に合格するまでは先生に会えない』ってがんばっています」土産とともにうれしい言葉だった。

秋も深まった十一月、A子と二人で話す機会をもつことができた。「前から父と母は仲が悪くて…母は、女の人から父にきた手紙を見てからは、ますますおかしくなるし、兄は兄で働かないし、私も不良になって反抗してやろうと思って…」 大概の友達は、不良みたいなことをしたがってるんです。気が弱くて出来ないだけです」「T子さんの家に電話をかけた時、お母さんが出て、私の名前を言ったら切られてしまったことがあって…」「仲間とけんかしてから友達が一人もいなくなって…。そんな時、S子さんが話かけてくれて、『私と付き合うととやかく言われるのに構わないの』と言うと『自分が考えて付き合うんだもの、ちっとも気にならない』って言うんです。感動しちゃって…。S子さんもN高校目指しているんです。「『このごろ、A子おまえ明るくなったなあ』って、今年来た先生にまで言われるんです」…。次から次へ話すA子の口もとを見ながら、この子の心の病が見えなかったことが、情けなく思えてならなかった。

にもかかわらず、「学習意欲を高めるためには、まずもって児童の実態を把握し…」など、話したり、書いたりしている自分が恥ずかしく、体の芯から冷や汗の出る思いがする。

三月、N高校合格のうれしい便りを待ちつつ、今日もドッシリ重い白いバックを握りしめ、校門を入るのである。

(棚倉町立棚倉小学校教諭)

 

喜びと意欲と

 

喜びと意欲と

佐久間  葵

 

けだったが、いかにも満足げで、大事業を成し遂げたうれしさをかみしめてい

 

「落ち着いてがんばれ」と校内弁論大会に出場したKに対して、私は心から声援を送る。いよいよKの番だ。彼の弁論に私は驚き、あっけにとられて見つめた。声は朗々と館内に響いている。私の心配をよそに、彼は堂々と発表しているのである。やがて発表は終わった。入賞こそしなかったが、彼は立派に重責を果たしてくれた。彼がクラス代表に選ばれたのは一週間前である。日頃消極的でおとなしいKには、それがとても重荷に思われた。それでも最善を尽くそうと、しかったりほめたりの特訓を放課後行い、この大会に臨んだのである。私は言い知れぬ感動を覚え、この喜びをすぐにKに伝えた。翌朝のホームルームでも級友から喝采をあびた。Kはにこりと笑っただけだったが、いかにも満足げで、大事業を成し遂げたうれしさをかみしめてい

 

 

 


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