教育福島0108号(1986年(S61)01月)-028page

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た。更に夕方、電話でKの父親にも模様を報告し、自分の喜びを伝えた。学校のことでほめられたのは初めてだと話す父親の声ははずんでいた。それ以来、Kは自信がついたとみえて、かなり積極的になっている。また、級友も彼に一目置くようになった。

クラス担任としてのこの八か月間は、私にとって決して楽なものではなかった。授業においても生徒指導においても、自分の力の及ばないことが多くあった。しかし、生徒たちをなんとかしてやりたいと思う。日々生徒は生徒なりに考え、悩み、成長したいと願っている。また、他から認められたいとも思っている。前述のKのがんばりは、「やればできる」という自信を級友に与えてくれた。更に、生徒たちを主体的に動かしてやりさえずれば、彼らは思わぬ力を発揮するものだということを、私は教えられたように思う。

 

さて、授業の中でも、それが生徒を主体的に活動させるものであれば、自然と効果があるはずである。私は、日々の授業では、できるだけ講義形式にならぬよう配慮しているが、なかなか名案が浮かばない。力不足を痛感させられる。やはり、生徒の発達を信じる影の力として、自分に今以上の実力をつけ、よい授業ができるようにならなければいけないと思う。

過日の教育センター研修(生徒指導講座)の演習で、興味深い実践例を教示された。それは、自己紹介の際に無作為に二人ずつ組んで向い合い、一方は聞き手(相手が納得するまで話させる)、一方は話し手となる。そして、三分間交互に会話させるものだった。始まるとすぐに部屋の中は騒然となった。初め硬かった先生方の表情は次第にほぐれ、なごやかな雰囲気になっていったのを覚えている。

ところで、授業でそれを生かし、生徒を自主的に動かせまいかと思い、それを取り入れた授業を数回実施してみた。予想以上の効果があった。やはり生徒一人一人、自分の話を聞いてもらいたいという欲求を持っているのだ。更に、二人ずつの会話の結果を尋ね、それを評価する。ほめてやり発展させる。このやり方に、更に磨きをかければ、生徒の考えを生かし、学習活動の中で、教師がその生徒たちの存在を認めることも可能であろう。

新任時代に、恩師から「してみせて、言って聞かせてさせてみて、ほめてやらねば人は動かぬ」という言葉を伺い知り、感銘を受けた。まさに的確な教育方針だと思った。教師が模範を示し、生徒に関心を抱かせ、言葉で教えてやり、やろうとする意欲を持たせる。そして最後にほめて、それを生徒とともに喜ぶという一貫した指導である。ぜひ、これを手本にしたいと思う。

 

生徒の多様化が進み、画一的な指導では限界があると言われている今日、無気力な生徒が多くなってきている。私は、今後も学校の教育活動の中で、更に工夫を試み、生徒をよく理解すべく努力したいと思う。

(県立二本松工業高等学校教諭)

 

歌声とともに

中野 久美子

 

りくりした、ほほの赤い子どもたちと出会って、早いもので一年半が過ぎた。

 

目のくりくりした、ほほの赤い子どもたちと出会って、早いもので一年半が過ぎた。

児童数、千名をこす大規模校から、全校生わずか八十九名という現在校に赴任した当初の戸惑いが、つい昨日のように思い出される。そんな私に新たな意欲と心のやすらぎを与えてくれたのは、着任式の日に実に素直な声で、一人一人が伸び伸びと歌ってくれた全校生による校歌であった。

私は、初めての経験である合唱部の指導を任され、夏が近づくころ本格的練習に入った。体育館に、子どもたちの歌声より大きな私の甲高い声が響く毎日。なんとか早く格好をつけたいと夢中になった私の焦りの声であった。

思うように子どもたちがついてこないので、ついつい声が高くなるのに反比例して、子どもたちの声が小さくなり、表情も暗くなるのに気がついた。ちょうどそのころ、私の心を見ぬいたのか、校長先生からアドバイスをうけた。「とにかく四年生以上全員が部員なのだから、音符が読めない子、音がとれない子、なかには音楽が嫌いだと思っている子もいると思う。そのことを頭において指導することが大切で、明るさ、すなおさを失わせないように−」と。

この一言で、私はやっと自分をふりかえる余裕を持てたのである。なによりも、みんなで歌うことの喜びを味わわせ、その中でハーモニーの美しさを自然に身につけさせることを第一として、楽しい練習をモットーとするよう路線の変更をしたのはそれからである。

不思議なもので、私がその境地になって、心にゆとりをもってきたとき、子どもたちの声と表情に明るさがよみがえってきたように思えたのである。しかし、なんとかまとまった演奏ができるようになるまでには、かなりの紆余曲折があり、コンクール出場をあきらめようと思ったこともしばしばあっ

 

 

 


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