教育福島0117号(1986年(S61)12月)-029page
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十月実りの秋、五年生の集団宿泊訓練に同行する機会を得た。会津たいらの里では稲刈りが終わり、山は色づきはじめていた。山路のあちこちには、くりの実がいい色をして落ちていた。キノコも顔を出していた。子どもたちは、くりの実を拾おうともしないでふんで歩いていた。自然のなりものや秋の景色に感動するようすはない。私はくりの実を拾い、キノコを採って近くにいた子どもに渡した。何人かの子どもは、興味をもち、キノコを採ってはにおいをかぎはじめた。私は、乏しい知識を駆使して色や縦にさけるかどうかで毒キノコかどうか見分けられることを実演してみせた。子どもたちは、何種類ものキノコを採ってはさけ具合いを試みていた。直径十五センチもあるドクツルタケを手にして驚いている子もいた。
現代は、自然のなりものより、子どもをひきつける物がたくさんあるのだろう。自然に親しみ、自然の中で遊ぶ姿は、ほとんど見られなくなった。「少年時代に感じた季節の移り変わりの鋭い記憶とその感覚の敏感さは、ほんとうに何にたとえていいかわからない」と室生犀星は記しているが、自然の恩恵や自然がつくりだす美しさを子ども時代に感じ味わうことは、人間形成に欠くことができない。いそがしさと、あわただしさに追われて心あたたまる落ちつきをなくしている現代にとって、子どもたちに、もっともっと自然な遊びが必要に思えてならない。
今日の子どもたちが獲得した幸福は昔とくらべものにならないほど限りなくある。反面、子どもたちをとりまく環境は、決して好ましいものとなっていない。大人や親たちの危倶と心配の中に拘束されて生活しているのが現状ではなかろうか。
目もさめるような黄金色や紅葉の美しさを見るにつけ、子どもたちに、自分の目で、手で、味覚で、そして、足で季節を感じさせたい。このことが、心豊かでたくましい子どもに育てることにつながると思っている。
(いわき市立湯本第一小学校教頭)
広がる心
鈴木良一
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私が、初めて、海というものを意識したのは、いつのことだったろう。幼い頃の海の印象は、多分に感覚的なものであったが、初めて体を浸した海は暖かく優しかった。会津の農村地帯に生まれ育った私にとって、いつも海を眺めて生活できるということなど、誰が予測したであろうか。そんな私が、東京から、百二十キロメートル離れた椿の島、伊豆大島へ、中学校の教員として赴任したのは、今から三年前になる。東京の中の離島という宿命に加えて、常に台風・地震・噴火といった自然災害の脅威にさらされている。また、頼みの生活定期便である船便も、天候に左右され、特に冬場は、季節風が強いと欠航することも珍しくない。それに、医療体制も万全とは言えず、急病ともなれば、緊急ヘリが要請され出動するということもある。これが、離島の現実であった。
しかし、子どものいるところに教育はある。そんな中で、青々と澄みきった空と海が、そして、島の子どもたちが、私に、しなやかな心の広がりを伝えてくれた。その背景には、海の持つ広さと深さがあると思われる。いつも海を眺めて育った、島の子どもたちにとって、海は魅力的な存在である。その海には、数十億年のはるか昔、原始の海ではじまった生命誕生のドラマが営まれており、そこから連綿と受け継がれてきた生命のいとおしさを海の青さが物語る。我々人間には、本能的に海を、遠い故郷だと感じるのかもしれない。我々の身体に、脈々と流れている生命のつながりに思いをはせ、命の大切さを島の子どもたちは、海から学んでいくのである。そんな、伊豆大島で得たしなやかな心を胸に、私はこの春、福島県の教員として、泉崎中に勤務することになった。
泉崎中は、昭和六十・六十一年度の二か年にわたり、県教委の国際交流推進研究指定校として、「国際性豊かな人間の育成をめざして・国際感覚を育成する指導及び生徒の活動の工夫」を研究主題にかかげ、研究実践に取り組んできている。数多くの国際交流の集いの中で、他国の中学生と、言葉だけでない心の交流を通し、他国の文化を理解し、他国に自由の文化を紹介できる確かな力と、豊かな心を育む教育活動に身をおくことができた。そして、本校の生徒には、今を含めたこれからの将来に目を向け、一度きりの人生を大切にし、自己の可能性を発掘しながら、自分にとっての最高の生き方を求めながら歩みはじめることを熱望している。私は、自分で歩みはじめた彼らに、この激動する国際化時代の中で、自分の生き方が、社会とどのようにかかわっているかを絶えず意識していってくれるよう強く望みたい。そんな彼らの、しなやかな心は、海の広さと深さに負けじと、点は線となり、そして面となって、全世界へ広がっていくことであろう。まさに、泉崎中の国際交流推進の研究実践は、点から線へと広がりを持って、スタートしたのである。
(泉崎村立泉崎中学校教諭)
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