教育福島0130号(1988年(S63)04月)-059page
世界の教育は今
海外教育事情の紹介
心のふれ合いを大切にした授業
−ハンガリ−
ハンガリーの北部に位置する人口約二万人の町、オロスラニイ。発展目.さましい町である。この町で音楽専門の小学校と体育専門の小学校、それに、ギムナジウム高等学校を訪問した。いずれの学校でも、授業中の張り詰めた緊張感あふれる雰囲気には驚かされた。どの教室を見ても教育機器らしきものはない。古びた黒板が中央に小さく位置を占めている。しかし、ひとたび授業が開始されるや、そこにみなぎる熱気にはただ圧倒されるだけであった。生徒一人ひとりを知り尽くした教師の適切な発問。覚えよう、学ぼうとする児童の目の輝き。正に温かい愛情に包まれた『小さな戦場』の感さえ覚えた。
個性豊かな教師と純粋で明るい子どもたち
個性伸長を中心とした教育方針に沿って、まず教師が個性的であった。指導法・リズム・教材の活用法など全てに豊かな個性が発揮されていた。一端休み時間になると、これまた驚くほど純粋で明るく、無邪気な子どもに戻り、盛んにサインを求めたり、握手を求めたりする。純粋で明るい子どもの姿に国境はない。正にそのとおりであった。
日本の学校の教室のように、テレビがあったり、OHPがあったり、更にはVTRやその他諸々の機器類のある学校は、スイスを含めて、今回の訪問先には一校もなかった。授業に必要なのは何か、を痛いほど教えられたように思う。「子どもを真に知らずして、その子に何を教えるのか」。子どもとの心のふれ合いこそ、教育の出発点であり、終着点であることを強く感じてきた。
充実した社会教育・体育施設
加えて、ハンガリーの社会教育施設や社会体育施設の充実ぶりには感心させられた。放課後はそれぞれ自分の求める施設を利用し、特技を一層伸ぱしていく。また、生涯教育、生涯学習の場を確保して、より豊かな人生を送れるように配慮しているなど、日本の学ばなければならないことは多々あるように思えてならなかった。
今回の訪問先、ハンガリーとスイスを比較して、その共通点をあげてみると、第一に、教師の個性が十分表されていること。第二に、子どもの個性を尊重し、その伸長に努力していること。第三に、廊下やロビーが広々ととられ、子どもたちが伸び伸びと活動していること。教師のプロ意識の強さや研修意欲の旺盛さも特筆すべきであろう。
反面、授業中の教室内の雰囲気には大きな違いを感じた。ハンガリーの厳しいまでに張りつめた緊張感に対し、スイスの伸びやかな明るい雰囲気は非常に対照的であったように思えた。また、ハンガリーの町方の清潔さに比して、スイスやパリなどの町の汚れは実に残念に思えてならなかった。
とにかく、『日本を真に知るためには、日本を離れて日本を見ることが大切である』という言葉を実感してきた。このような機会を与えられたことに感謝するとともに、今後の教育活動の糧にしていきたいと強く感じてきた。
(昭和六十二年度文部省海外派遣短期第七十一団 郡山市教育委員会学校教育課指導主事 田中 誠)
先生を見つめる呉剣な表情(オロスラニイ第四小学校)
休み時間に子どもたちと(右から二人目が箪者)