教育福島0133号(1988年(S63)09月)-059page

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世界の教育は、今。 海外教育事情の紹介

生徒一人一人を大切にした教育

−スイス−

スイス北西部のソロッツルン州にある初等学校、地域中等学校、職業学校、ギムナジウム高等学校、及び教育委員会を訪問した。

スイスでは、職業学校を除き、各州が地域の実態に応じて独自の教育制度を設け、住民の要求に基づいた学校教育を推進している。教育課程も、子どもの可能性を尊重し、個性や能力に応じて多様な教育が受けられるよう編成されている。例えばソロッツルン州では、小学校卒業時に、国語.数学のテストの成績とある程度の希望によって四種類の中等学校に進学する。すなわち、学力の高い順に、大学入学を目指すギムナジウム中等学校に全体の約五パーセント、地域中等学校に三十〜四十パーセント、中等学校に三十五〜四十パーセント、最後に比較的能力の低い生徒が手工芸を習得する普通学校に二十パーセント程度進学する。

訪問したどの学校も十〜二十五人の少人数学級編制で、教師と生徒とのコミュニケーションが十分図られ、個別指導がゆきとどいており、伸び伸びと学習にとりくんでいる生徒の姿に感心させられた。教師と生徒が手をとり合って楽しそうに歌い踊っている外国語の授業など、学習形態も多様で、自由な雰囲気の中にも教師の情熱や創意工夫が感じられた。

また、「学校は学問を教える場、」つけは家庭で」という役割分担が浸透しており、教師が教科指導に思う存分うちこめるのは、家庭での生活指導の徹底が基盤になっていると思われる。生徒指導の今後のあり方について考えさせられた。

一方、二年に一度ずつ教員としての適格性を地域社会の学校委員会によって審査されるという厳しい一面にも驚かされた。

職事教育が充実

スイスでは、中等学校卒業後、職場と学校の連携によって、職業学校に週二回通い、一般教養や職業理論を学びながら会社に勤務するという職業教育が充実しており、より高度な製品の生産活動を行おうとする工業国スイスの姿勢がうかがわれた。職業学校は通産省、労働省が管轄しており、教育課程は一年から四年まである。訪問したオルテン職業学校には、塗装科.建築科、自動車科等三十三種あり、一千六百名の生徒たちに勉強しやすい計画が立てられていた。どの講座の授業も学習意欲が教室内にみなぎっていた。技術、技能の訓練ばかりでなく.人格の形成に努めていると言っていた校長先生の説明が印象的であった。

スイスにおける教育に対する期待は、わが国同様大きく、生徒一人一人の可能性を信じ伸ばし育てる教育の大切さを改めて感じさせられた。

昭和六十二年度文部省海外教員派遣短期第七十一団

大熊町立大熊中学校 教諭 猪狩みか子

少人数学級で伸び伸びと学習している子どもたち(ヘルメスピュール小学校)

少人数学級で伸び伸びと学習している子どもたち(ヘルメスピュール小学校)

塗装科で熱心に学ぶ生徒たち(オルテン職業学校)

塗装科で熱心に学ぶ生徒たち(オルテン職業学校)


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