教育福島0135号(1988年(S63)11月)-021page

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(分析方法)、文法的な取り扱いによる指導(文法的方法)と、子どもの思考や感情に合わせたことばの指導(自然法)における指導の問題点を次のように指摘している。

1 分析的方法、文法的方法では、指導の重点が言語の体系的側面におかれているため、・言語によって自分の気持をまとめ、伝えるという言語本来の役割、言語活動の機能的側面の指導が忘れられがちで、間違いのない型にはまったことばを記憶させ使わせようとする意図が強いため、子どもの話は画一化され、それぞれの子どもに応じた子ども自身の個性ある言語が発達しない。

2 自然法については、早期教育においてはその基本的な考え方に異論をさしはさむ余地はないと思われるが、純粋にこのような方法で言語発達を期待するには、教師の資質と技能にかなりの水準を必要とする。さもないと、子どもと遊ぶだけに終わって何も得られない場合がある。

以上のようなことから、聴覚障害児のことばの学習・定着においては、構文等の体系的側面をおさえた言語教材の準備が必要であり、学習活動においては、言語の機能的側面の活動でなければならないと考えられる。そこで、言語の機能的側面を保持した活動を展開しながら、ことばや文の意味の理解を図り、構文のような体系的側面のドリルが行いやすい素材の選択が必要となってくる。次にその一例を紹介する、

 

歌唱による言語指導の実際

県立聾学校

 

一 指導のねらい

 

歌は、次のような点でことばの指導を行うのにょい素材である。

1)歌詞は、一つの物語を構成していることが多く、ことばや文の意味をイメージ化しやすい文脈を提供している。

2)ことばや句が少しずつ変化して、ある構文が何度か繰り返されるので、語の外延が拡げられる。また同一構文のドリルができる。

3)特徴的なリズムやメロディのためことばが理解しやすくなる。また、リズムやメロディによって作られる語感がことばを印象づけ、イメージ化に役立つ。

4)小学部一年生は、発達的にリズミカルな活動が好きであり、みんなと歌ったり、みんなの前で歌ったりすることによって、繰り返しができる、

5)歌いながら動作化したり、劇化したり、イメージを絵に描いたりするなど、いろいろな活動ができる。

これらの利点があるので、教育の開始が遅れ、身振り等の視覚的情報によるコミュニケーションが主である児童一名と、音声の使用は活発になってきたが、語い、構文とも少なく、キーワード(文中の一部分)による反応が多く、文による受容・表現にまだ至らない児童二名、計三名の集団で歌を使ってことばの拡充と定着をねらった活動を行ってきた。表1(二十二ページ)に児童の実態と本活動を通してのねらいを示す。

 

二 活動の実際

 

歌うということの外に

1) ことばや文の理解を確かめ、意味の拡充を図る。

2) 読話、聴き取り、発音の練習をする。

3) 動作化や絵、劇化等により歌詞の読み取りを深める。

など、児童の状況を観察しながら、いろいろな活動を行ってきた。表2(三十一ページ)に活動の展開の一例を示した。

 

三 実践結果と今後の課題

 

四月と五月には各一曲ずつ、六月以降は二、三曲を取り上げ指導した。

六月以降、歌の数が増えてきたが、これは、子どもたちの語いや構文が増し歌詞の理解が早くなってきたためである。指導後も、使った歌詞カードを教室に提示しておいたことにより、子どもたち自身が歌唱できる歌が増えたことが実感でき、「こんどは何の歌かな」と、新しい歌を覚えることへの動機づけが高まってきた。

歌やことばの定着という点では、母親から、帰宅途中の車の中や家で子どもが歌っているとの話があり、学校でも遠足のバスの中で外の風景を見ていて、以前に覚えた歌が出てくるなど、その定着の様子が観察された。また、K・Nや1)・Aの二人は、レコードからの聴覚のみの受容で、扱った歌については、何の歌か聴き分けができるようになり、「わかる」とうれしそうに

 

歌詞に合わせてことばの練習

歌詞に合わせてことばの練習

 

 

 


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