教育福島0135号(1988年(S63)11月)-020page

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聴覚障害児のことばの指導

養護教育課

 

はじめに

 

聴覚障害児にとっては、他の物を見ながら話を聞くとか、いろいろな動作や作業をしながら話し合うといったことは、非常に難しいことである。したがって、学習の能率が悪いばかりでなく、概念形成に難点があり物事を不正確に覚えている場面によく直面する。健常児の言語習得と同じように、言語活動の場を言語指導の中核とすべきであるけれども、聴覚障害児は適当な言語環境があっても何らかの働きかけがなければ、言語を受容することは不可能なのである。

 

一、ことばを育てるために

 

聴覚障害児と健常児との違いが、最もはっきりあらわれるのは、ことばの発達の面である。聴覚障害児は、ことばの発達について二つの面の障害をもっている。つまり、ことばを聞くことができないということと、話すことができないということである。しかし、話すことができないのは、聞くことができないための結果にすぎない。

健常児の場合、自分で話せるようになる前に、まず耳でことばを聞いて理解していく。そして、それをまねることによって、しだいに話せるようになってくるが、聴覚障害児は、特別な工夫や努力がなされない限りは、ことばを理解することも、まねることもできず、ついに口がきけなくなってしまうわけである。こうして、ますますことばの世界から遠ざかってしまう。

聴覚障害児の学力の遅れの主たる原因は、ことばの発達の遅れ、とりわけ読み書きの能力の遅れ、それにコミュニケーションの制約にある。

こうしたハンディキャップをなるべく早く改善することが必要であり、できることなら、初めからハンディキャップをつけないように手当てもしたいものである。これが早期教育のねらいである。

本県の聾学校には、幼稚部を設置しており、三歳から入学ができ、早い時期からの教育が可能である。言語指導の効果を高めるために、より早い時期から、より適切な方法でことばを育てていくことが必要である。

聾学校幼稚部のねらいは、

(一) 子どもの全人的な発達をうながす。

(二) 耳が聞こえないことを補うための教育をする。

1)注意、集中、観察、模倣及び記憶力や理解力等を伸ばし、コミュニケーションやことばを学習するための素地を整える。

2)ことばの発達をうながし、基本的な日本語を身につけさせる。

3)補聴器をかけさせたり、聴能訓練をすることによって、残存聴力を最大限に活用し、開発する。

4)ことばの入り口を増やすために、読話の手ほどきをする。

5)ことばが明瞭に話せるようにするために発音、発語指導をする。

6)話しことばの補助手段として、文字を早くから導入する。

(三) 子どもと家庭との間に相互理解がうまくいくようにする。

1)両親教育を充実することによって、子どもに対する適切な接し方を身につけさせ、両親が自信をもってわが子を扱えるようにする。

など、学校と家庭が連携して、早期にことばを育てることを実施している。

なんといっても、ことばを育てるには幼児期に教師と親とが一体になり、ことばに対する子どもの興味関心をそそらせることにより、子どもが強い好奇心をもって自らことばを身につけていくことが最も重要なカギとなる。

 

二、ことばの定着のために

 

ことばの定着、つまり、あることばや文が子どもの頭に記憶され、必要に応じて使用できるようになるには、子どもがそのことばや文の意味を理解し、他のことばや文と関連づけたり、規則性を発見して言語構造をつくっていかなければならない。そして、このようなことばや文の記憶と思い出し(再生)は、記憶されることばや文が、多様な文脈の中でそのことばや文のイメージ化を助ける付加的な情報とともに扱われることにより促進されると言われている(J・R・アンダーソン「認知、心理学概論」一九八〇年)

したがって、聴覚障害児にことばを定着させていくためには、ことばや文を単独に取り上げて指導するのではなく、いろいろな文脈を用意し指導していくことが大切であると考えられる。

 

三、ことば指導の着眼点

 

語いの学習は生涯続くものではあるが、健常児の場合、基本的な構文は四歳ぐらいまでに、音韻の構造は六、七歳ぐらいまでに習得される。

県立聾学校の児童生徒の言語力の実態(昭和五十七年から五十九年に調査)を、文の再生テストの結果からみると、語い、構文力とも停滞している者が多かった。とりわけ、語いの面では、学年が上がるとわずかながら伸びているが、構文の面では学年による伸びがほとんどみられなかった。

それでは、助詞の用法や文法のような構造的な学習に力を入れればよいということになるのだろうか。

岩城謙(「叢書・養護・訓練 2聴覚」一九七七年)は、ひとつひとつのことばを取り出して指導する方法

 

 

 


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