教育福島0139号(1989年(H01)06月)-051page
世界の教育は今。
海外教育事情の紹介
多人種・多民族国家の教育
−アメリカ合衆国−
さまざまな資料からアメリカは、まさに多人種多民族国家であることがわかる。と同時に多くの問題をかかえているといわれている。教育の分野でも「国語」教育に力を入れている事実は想像を越えるものがあった。「差別」は解消したといっても現実にはなくなっていない。人種や民族、皮膚の色、宗教などによる差別を解消しようとしているアメリカ社会の実態について自分の目で確かめる機会を得たことに感謝している。
一人一人の個性・能力の尊垂視察校は八校と教育行政機関である。その中で特に次のような点が印象に残り、深く考えさせられた。
一、教師が児童生徒の個性・能力を科学的合理的な方法で把握することに努力し、児童生徒のもっている特性を発達段階に応じて、最大限に伸ばすことに全力を傾けていること。
二、その個性・能力を学校教育全体で十分発揮させるため、諸条件の整備充実に力を入れていること。中でも、
1)施設設備が充実している。
2)基礎学力の向上、特に「国語」、「算数」の学力向上とコンピュータ導入による学習の個別化、効率化に努力している。
3)スタッフ陣の質・量の充実に努力している。
4)カウンセラーの役割強化を図っている。
5)とくに高校・成人教育分野では、卒業後の社会全体の受け入れ体制がかなり満足できる状態で整っていること。
三、宗教が学校教育の重要なバックボーンとなっている。
選択コースでの学習
進路指導でも中学の高学年から高校・成人教育の中で自己の能力や適性を発見させ、その能力を十分発揮させることを目的としたさまざまな選択コースが設けられている。それぞれのエキスパートを指導スタッフとして迎え入れている事業を視察することができ、感心するとともに考えさせられることも多かった。つまり現在のアメリカが抱えている大きな問題である中退者の増大、少数民族の教育と就職問題、若年層の失業などの諸問題に対する対応策の一つとして実施されているのだろうが、これが、いわゆる教育における差別的な職業のコース分けを合理化することになりはしないかという疑問を抱いたのである。
しかし一人一人の個性を尊重し、個性・能力を的確に把握することに努力し、その上で自己実現を目指して選択コースの学習に取り組んでいる生徒と教師の真剣な学習姿勢には学ぶべきことも多かった。
教育改革と新たな課題
アメリカ合衆国はかつてのスプートニクショック以来さまざまな教育改革に取り組んでいるといわれている、確かに施設設備やスタッフの質・量等においては見るべきものが多かったが、個々の授業の質や効率化という点からはかなり問題があるのではないだろうかと考えさせられたのも事実であった。
昭和六十三年度教員海外派遣(短期)福島県第七十一団
福島市立立子山中学校教頭森和彦
私たちを歓迎する合唱クラブの生徒たち(ホープウエル高校)
小学3・4年生の体育の授業風景(パトリックコーブラント小学校)