教育福島0147号(1990年(H02)06月)-037page

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か肘の緊張が緩み、自ら腕を曲げる。(この後、肘の緊張が緩み、腕を曲げることが多くなる。)

5)S児の腕の抵抗が加わるように、少しずつ紐に力を加えて、起き上がりこぼしを動かし音を出す。

6)S児が引かれまいとして抵抗している時に「よいしょ、よいしょ、負けるなS児」と励ましながら行う。

7)肘を軸として、前腕を百八十度回したら拍手する。

8)二〜三度行うと、棒を指に引っ掛けただけで前腕を回そうとする。

9)ずっと反り返ってはいたものの、真剣な表情で五〜六分集中していた。その後疲れたのか少し声を出し、反り返りが強くなり始める。

10)そこで「あるけ」と言葉に合わせてS児の手をガイドし、筆者の体を三回叩かせた後、ひと呼吸おき、S児の目の動きや手の動きをよく見てから、歩くようにする。

11)「あるけ」と筆者の体を叩かせると叩いた方に目を向けるので、それから歩くことにする。(歩いている途中発作がある。発作がおさまり意識を取り戻したので、続けて行う。)

12)「とまれ」と言って歩くのを止めた時、少し間をおいて「あるけ」とだけ言い、S児の手をすぐにガイドしないで、筆者の体に触れさせたままの状態にしておくと、指がわずかに動く。

13)このように指の動きが見られたら、「あるけたね」と言って、その手の甲をこちらの指先で軽く「あるけ」と三回つついてから歩き始めるようにする。

 

この時の健康状態は、決して良くなかったものの、比較的安定した状態であったので、始めからS児の自発的な行動の発現を求める積極的なかかわりを持った。

同じ姿勢が続くと、一分も経たないうちに反り返りぐずってしまうS児が9)のように五〜六分も同じ姿勢で集中した状態であったことは、これまでのかかわりの場面では見られなかったことである。

このことは、S児が自発的に行動を発現することによって、集中した状態を持続することができることをも示しているとみることもできよう。

9)の時点でS児を抱いて軽く揺すれば、一時的に反り返りやぐずりはおさまるだろう。だが、かかわり手がS児の主体的側面を重んじるならば、抱かれて歩くという受け身的な状況であっても、それがS児にとってどのような意味や関係を持つのかを何らかの形で知らせる必要があるのではないか。

10)〜13)はその具体的なかかわりの試みの一つである。こうしたかかわりを繰り返すことによって、反り返りやぐずりが早くおさまるようになったのはもちろんのこと、13)のように「あるけ」という言葉による合図だけで、指の動きが見られるようになったのである。

このことは、S児が行きづまったり、混乱した状態に陥った時、それらの困難を乗り越えていく力を備えていることを示しているとも言える。

かかわり手側としては、S児がこのような力を出せるように、S児の個体内、外の条件を整理しながら、S児がよりたくましく生きていくための教育的援助を行っていく必要がある。

 

三 おわりに

S児の場合、内部条件が多分にS児の状態変動を生じさせており、この点では医療サイドの関与する部分が大きい。だが教育的なかかわりによって、ごくわずかな時間ではあるが、真剣な表情を見せてくれるような状態になることも事実である。だからこそ困難ではあっても、教育の立場からS児の状態そのものに検討を加えていく必要があると思われる。

それは例えば、一方では、その時々の状態変動に応じながらも、他方では≡長期的視点からS児の教育的課題を見つけ、S児のおかれている状況の中でS児の主体的な活動をより高めていくような教育的なかかわりを、S児にとって分かりやすい方法で進めていくことなのではないだろうか。

 

集団学習の中での生徒指導

−県立須賀川養護学校−

 

一 はじめに

家庭を離れ、入院生活を余儀なくされている病弱児は、病気による苦痛や病状への不安に加えて、さまざまな生活規制、生活空間の狭さ、親の愛情不足、対人関係のまずさなどからくる悩みや欲求不満が生じやすい。これらのことが根底にあって、日常生活においては、消極的で引っ込み思案な態度、自己中心的な言動、落ち着きがなく集中力に欠ける行動、衝動的な行動などといった形で表面に現れることが多い。

このような病弱児に対して、心理的問題の解決や情緒の安定、自己の生活を自ら切り開き意欲的に行動する力の増強を目指した試みの一つとして実践したのが、ここに紹介する集団によるロールプレイング状況である。

 

二 行動理解の視点

まず、私たちが子どもとかかわりを持つ上で前提となる、行動理解の視点について触れておきたい。

障害の有る無しにかかわらず人間の生活活動は、集中度が高く微細な調整も可能な状態で進行するいわゆる学習活動が発現する場合もあれば、状況が

 

 

 


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