教育福島0147号(1990年(H02)06月)-036page
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出生。保育器使用。生後二日目に痙攣発作が始まり、即刻治療のためA小児科病院へ入院した。生後四か月時にB療育センターで脳性まひと診断され、五か月時に約一か月間訓練及び治療のため母子とともに入園した。その後も二週間に一回通所している。
(幼児期)
B療育センターに通所しながらも、二歳七か月時から地域の自主訓練会に週二回通っている。
4)医学的所見
脳性まひ及びてんかんを伴う重度精神発達遅滞である。眼球の動きは極めて鈍く、対光反射に欠ける。上下肢ともに強剛痙直が認められ、膝蓋腱反射は亢進し、バビンスキー反射も見られる。
5)かかわり当初の様子
発作が頻発し筋緊張も強く、同じ姿勢が続くと、一分も経たないうちに反り返りぐずることが多い。また風邪をひきやすく、一度風邪をひくと長期化し感覚刺激に対して過敏となったり、睡眠・覚醒のリズムが乱れたり、状態や行動が短期間で目まぐるしぐ変化したり、といったことがみられる。このため寝たきりのS児の生活の介護をしている両親においては、並大抵でない苦労がある。
(二)かかわりの方針と課題
S児の状態変化や行動を理解する上で、例えばS児は突然の音に対して驚き反り返ってしまうが、S児の手にこちらの手を添えて棚から物を落とした場合には、大きな音がしても全く緊張がみられなかったとか、またS児にゴム風船を触れさせようとしたら、嫌がって反り返ってしまったが、しばらく時間をおいて同じことを試みると、嫌がることなく触れた、といったような事実を「その行動は単なる偶然だ」とか。子ども側の条件だけを見て、「今日は、体調が良いからだ」とか。「感覚受容水準がまだ低次のレベルだから」といったように簡単に片付けてしまうのでは、S児にとって何の問題の解決にもならないだろう。
S児にかかわりを持つものとして、行わなければならないことは、S児の状態や行動の変化をもたらす周囲の環境条件(かかわり手側の条件も含む)やS児側の条件を明らかにし、そこにどのような関係が生じているのかを探っていくことであろう。これらを踏まえた上ではじめて教育的なかかわりが始まるのである。
ただ筆者も含め大人たちは、S児の著しい状態変動や、それに伴う激しい行動の変化にどうしても目を奪われがちになる。だがこうしたことに十分注意しながらも、S児が示す状態の変化や行動に対して教育的なアプローチをしていかなければならない。
だが、S児はその障害のゆえに、自らの力で状態や行動を変換あるいは持続することが困難な状況に置かれている。それゆえかかわり手は、S児が自らの力で状態や行動を変換、持続するのを手助けするようなかかわりの工夫を持たなければならない。そこでは、かかわる側が、S児とのやりとりの中でS児の主体的な側面をどう取り入れていくかが課題となる。
(三)かかわりの実際
S児は心身の状態の変化が著しいため、その教育的かかわりにおいて困難を来すことが多い。例えば、状態が安定し、かかわりに集中していたかと思うと、突然反り返りぐずり始めるといったことがしばしば見られた。そんな時には、S児を抱いて歩くと落ち着くことがあるので、S児のリズムに合わせるようにして、ゆっくりと一から十まで数えながら抱いて歩くというかかわりを持った。
抱いて歩くということで、S児が良い状態に向かうということは、この条件がS児にとって好ましい条件であることを示しており、また、S児がこのことをすでに学習していることを示している。
そこで抱いて歩き始める時とその終了時に、こちらからS児に言葉による合図(「あるけ」「とまれ」等)を発することにした。こうすることで、S児の中に抱いて歩いてもらうことに対してのある種の『構え』のようなものが形成されるのではないかと考えたからである。
そして、その合図を発する時に、次のような点を考慮してかかわりを持った。
(1)より確実にS児に合図を伝えるために言葉による合図だけでなく、そこにS児自身の体の動きを重ねた。(S児の手をガイドして、筆者の体を言葉に合わせて叩くようにした。(2)の合図をする場合、S児に伝わりやすいようにゆっくりと、そしてはっきりと発した。
(3)合図を発した後、その合図をS児が受け取っているかどうかを、S児の目の動き・表情・手の動きなどを指標にして確認した。
では、実際に筆者がどのようにS児の心身の状態や行動をとらえ、どう対処したのかを、指導記録の一部から紹介する。
S児は数日前に風邪を引き、少しぐったりしている。S児は床に伏臥位になっており、かかわり始めたところである。
1)音の出る起き上がりこぼしを動かし「よいしょ、よいしょ、しようよ」と誘う。
2)音のする方に顔を動かしたので、起き上がりこぼしに付いている紐の先の棒を指に引っ掛けようとするが、腕全体に緊張が見られ伸展しており、指も固く閉じているので引っ掛けられない。
3)肘の所を「おてて」と指先で軽く叩くようにして、緊張を緩めるように促すが、なかなか緩まない。
4)六〜七回これを試みていると、偶然
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