教育福島0149号(1990年(H02)09月)-026page
![]() ![]() ![]() |
![]() ![]() |
かげりを感じる時、私自身も大きな壁にぶつかってしまった。ただ一つ、子ども達は、体育の時間になると水を得た魚のように、生き生きと活動してくれたのが、せめてもの救いであった。
ところが、泳げないのである。プール開きの時、私は、脳天を打ち砕かれたようなショックを受けた。そこで、この子ども達に、「やればできる」という自信を持たせようと、水泳指導に全力を注いだ。どの子にも目標を達成できる喜びを体感させることによって、そこから壁の一角を突き崩そうと考えたからである。それから毎日、とに角一緒にプールに入り、手とり足とり指導した。顔さえ水につけられずにいた子ども達が、けのびができるようになり、クロールで進むことができるようになり、日ごとに、なんとか泳げるようになった。そんなある日、Y男が初めて、二十五メートルを泳ぎ切った。苦しい練習で何度も流した涙が、今、泳げたという感激の涙になってY男の頬を伝わった。自分で泳げたというわけでもないのに、Y男に声援を送った十二名の瞳にも涙が光っている。私も熱いものがこみあげ、ただただY男の頭をなでるだけで言葉にならなかった。それがきっかけとなり、夏休み前には十一名が泳げるようになった。
「一人のがんばりが、みんなのがんばりにつながり、みんなのがんばりが、一人のがんばりにつながる。次は、算数だ」……
現在、個を生かすということが重視されている。M男が初めて黒板に自分の答えを書いた日、思わず湧き起こってた拍手……計算の苦手なM子が、初めて百点を取ったと目をうるませて喜ぶ姿……そして、S男もK子も……現在学校のリーダーとして活躍している。
「教育には、ロマンと感動がある」
十三名の子ども達は、私に多くのことを教え、学ばせ、教育する楽しさと喜びと、そして、ロマンと感動と個を生かすことの大切さを教えてくれた。
子どもは、水源地の高さまで伸びると言われる。私自身も目標を高くもち一人一人のよさを認め励まし、自らを教育する力を身につけることによって、へき地教育の楽しさを味わわせてくれた子ども達に、恩返しをしたいと考えている。
(塙町立那倉小学校教諭)
学級だより「そよかぜ」と私
大槻トキ子
![]()
「中学生になると、男の子は学校のことを何も話さなくなり、不安でしかたがない」-入学式後、ふと耳にした一母親の言葉、これが学級だより「そよかぜ」発行のきっかけでした。
新しい制服で心も新たに、光り輝いて入学してくる中学一年生。初めての親子にとっては、期待とともに一抹の不安があるのは当然のことと思われます。また、担任教師としても、この時期学校生活に必要な基本的生活習慣を一時も早く身につけさせ、スムーズに学級経営をスタートさせたいと誰もが希望しているものです。この親と子と教師の共通の接点を見いだすのには、まず、「知らせる」ことから始める必要があると思ったのです。
学級経営の方針の中で、保護者と教師が一体となって、生徒一人一人に基本的生活習慣を身につけさせることをねらっていましたので、保護者の理解と協力を得、関心を高めるために、親子の対話にふさわしい題材を取り上げるように努めました。
たより名はさわやかに人の心を吹き抜け、時にはさざ波を立て、読み手の心を刺激しながら快く、そして、何かを残しながら親子で考え合うような紙面にしようと意図して、「そよかぜ」としました。記事内容は学校(できるだけ多くの先生方)・保護者・生徒の三本立てとし、冒頭には俳句や生活ごよみを掲載して季節感を出し、原則として週二回定期発行することにしました。
発行に当たっては、より速く、より広く、より興味深く、より楽しくをモットーに、新鮮な記事であることを心がけました。
発行すれば必ず反応はあるもので、保護者は毎日の生活記録ノートに感想を寄せてくれましたし、ほとんどの家庭が保存していることも、アンケートの結果から確かめることができました。また、生徒は自分の言動を紙面でほめられたり、自分の考えが掲載されたりした時の喜びは格別で、文章を書くことの楽しみも覚えたようでした。
このようにして、三年間書き続けた学級通信でしたが、生徒や保護者に励まされ、あるいは周囲の先生方の何げないささやかな言葉に力づけられながら継続することができました。そして、一人一人の生徒に目を向けて観察していれば、書く題材に不足はありません
![]() ![]() ![]() |
![]() ![]() |