教育福島0155号(1991年(H03)06月)-044page
など、教師のかかわりが問われるのです。
3、行動の見取り図としての「行動記録表」
子どもが絵を描く時は、夢中で絵を描いている行動もあれば、しかたなく描いている行動もあります。子どもが示すその時々の行動は、このように十分に展開していたり、反対に停滞していたりとその子なりの対処の仕方で選んでいます。
それを行動のレベルとして尺度化したものが資料1)です。この行動のレベルに即して、どう教育的対処をすればよいかを判断して実行するのが指導援助となります。
動きが大きいとか感情の起伏が激しいとか個性豊かな存在である子ども、その子を取り巻く教師のかかわり等を含めた環境は、刻一刻と変化しています。こうした状況における実態把握や指導援助は、その変化に対応できるものでなければなりません。
そのためには、子どもの行動の変化が記録でき、その変化に関与している周りの条件が読み取れ、目の前の子どもへの指導援助の方針が見つかるような実態把握の方法があれば便利です。それを目指して作成したのが、行動の見取り図とも言える、次の「行動記録表」です(資料2))。
4、行動記録表の活用により、子どもの側に立ち、考えていけるようになる
この行動記録表に記載された事例は、状況の変化に対処することや感情を抑制することの不得手な、ある学習障害と呼ばれるLD児とのサイコロを使ったかけ算ゲームを通してのかかわりです(資料2)に一部掲載)。
行動記録表を活用することで言えることは、子どもの感じ方や考え方をとらえ、子どもの側に立ち、子どものことを考えていくことができる、ということです。指導援助もその中でおのずと見つけ出せるものです。
5、対象を選ばない実態把握の方法である
行動記録表は、行動に視点を当てた実態把握の方法なので、障害の有る無しにかかわらずどの子どもにも活用できます。その活用例の詳細については、当センターの研究紀要第五号をご覧ください。
※資料2)の参照部分
1) 行動が十分展開して終われるような指導援助をしよう
第1段階のみ、発現した行動が十分展開して終わるのを「◎」、途中で終わってしまうのを「●」のプロット記号を用いている。
授業の中で、教師は、子どもがその時展開しようとしている活動を、できるだけ能動的にやりとげることを助けようとするかかわりをする。その場合、子どもの行動が「◎」で終わるのか、「●」で終わるのかは重大である。行動が十分展開して終わることの積み重ねが、次のより高い活動を自ら見出し、それに踏み出していく自信をつくっていくからである。
これらのプロット記号を見ていくことで、子どもの学習の成立状況や教師のかかわりが適切なものであったかどうかが判断でき、「●」であれば、指導援助の見直しが求められる。
番号4と5の「●」は、どちらが先にゲームを始めるかの順番決め(取り出した二つのサイコロの数字の積の大小を比較)について理解されておらず、実際のゲームが始まっていると思いこんでの、サイコロを取り出そうとする行動を否定されたのである。「●」が続けば、それは意欲消失につながる。
2) 行動レベルの困った状況への大きな変動は指導援助の必要を訴える
番号6の「今、練習?」、9の「先生出すの?」と聞いた子どもの行動は、順番決め、練習、ゲームが混同していることの表れである。行動のレベルとしても不安な状態で落ち込んでいる。
かかわり手はそのことに気づいて、言葉で指導援助を図ったが、それが不十分であったことが分かる。
3) 記録して得られる指導援助〜次の指導で、他の子とかかわる時に生かそう〜
求められる指導援助としては、
○ゲームのルール理解のための丁寧な説明をする。
○順番決めとゲームの始まりとの区切りを明確にする。
○順番決めの方法を、ジャンケンなどゲーム内容とは異質なものにする。などが考えられる。
ビデオを通して子どもや教師の行動を記録表に記入してみると、このように、授業後にかかわりの不適切さに気づくことが多い。しかし、次の授業で、または他の子どもとかかわる時に、この気づきが生かされることに意味がある。