教育福島0157号(1991年(H03)09月)-024page

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うやく計画ができ上がり、いよいよ出店準備に取りかかることになった。

子供たちは、縦割り班毎に、それぞれの教室に分かれ、商品作りに夢中になっている。M子は、空箱に包装紙をていねいに貼り付けている。聞いてみると、宝石箱を作るのだという。ようやく一面を貼り終えると近くで見ている私にもはっきりと聞こえる声で、隣の子に楽しそうに声をかけている。いかにも満足しきった微笑を満面に浮かべながら…。

K男は、川原から拾ってきた平らな石を使い、文鎮作りに懸命である。床にあぐらをかき、両手で石を大事そうに掲げ、様々な方向からながめては、どんな動物にするか悩んでいる。あたかも小さな芸術家であるかのように…。

普段は、あまり活発でないという印象があった私には、日の前の二人が周囲のどの子供たちよりも大きな姿となって写ってきた。私は、しばらくその場を離れることができなかった。

当日の朝、子供たちは心を弾ませて登校してきた。大滝根おろしも吹き飛んでしまうほどの熱気が感じられた。開店の時間がきた。校舎の中は、たちまち歳末の商店街のようなにぎわいとなった。M子もK男も、ほほを真っ赤にして、大きな声で呼び込みをしている。二人の額には、汗がにじんでいる。ひとみをキラキラと輝かせ、本当に楽しそうである。

この活動を通して、改めて子供たちの力強い、活動的な姿に感動を覚えた。自分たちで考え、計画したことに向かって、本気で取り組む姿。仲間との協力と励ましによって、くじけそうになる心に打ち勝ち、最後まで全力を出して挑む姿。心の底からの充実感と満足感を味わった子供たちの笑顔を忘れることはできない。

校庭から、友だちとボール遊びを楽しむM子の甲高い声が聞こえる。子供らしい無邪気な笑顔が見える。

(川内村立川内第二小学校教諭)

 

握手を始めて四カ月

平子留美

 

「先生、握手をしよう。」

 

「先生、握手をしよう。」

一学期の終業の日、帰り際に子どもが私のところにやってきました。子どもの手を握りながら一学期の初日のことを思い出し、自然に笑みが浮かんできました。

私が初めて担任することになったのは四年生、男子十四名、女子一名、計十五名の学級です。

四月、初めて担任する子ども達の顔を思い浮かべながら、ロッカーや机に名前をつけました。この子ども達とこんなことをしてみようと、胸膨らむ時でした。初めて教室で子ども達に会う時、緊張をふりはらうために、ドアの前で大きな深呼吸を一回して、元気に教室に入っていきました。子ども達の瞳を見て、教師になっての喜びと責任感をしみじみと感じた時でした。始業式の日、「これからよろしく。」という気持ちを込めて、一人一人と握手をして別れました。子ども達の手のあたたかさを感じた時でした。このように、不安な中にも期待を持って、私の学級の一学期は始まったのです。

しかし、数週間が過ぎると「本当に、担任としてこの学級をまとめていくことができるのだろうか。」こう思うことも出てきて、学校への足どりが重くなったこともありました。

一学期で印象に残った児童にF君がいます。F君は四歳の時に交通事故にあい、学習が他の児童より遅れていることもあって、不登校気味の児童でした。それも、決まって月曜日に学校を欠席する傾向がありました。私の目指す学級は「一人一人が光っている学級とです。何とかF君にも学級の中で光ってほしいという思いで一杯でした。そのために、土曜日には必ず、「月曜日に会えるのを楽しみにしているよ。」欠席した次の日には、「F君がいなくて寂しかったよ。」などと声をかけるようにしたのです。これは学級の子ども達の間にも広がっていきました。

一学期が終わって、全く泳げなかったF君が今では真っ黒に日焼けし、毎日元気にプールに通っています。

教師になって四カ月。何もかも初めてのことばかりで、あっという間に過ぎてしまいました。学級経営もまだ片足を踏み入れたような段階です。自分自身の目指すものへ向かってより前進していくことが今後の課題です。

私にとって初めての一学期は、子ども達との握手で始まり、握手で終わりました。これからはもっともっと子ども達との触れ合いを多くしていきたいです。また、子どもから学ぶ姿勢も常に持ち続けたいと思っています。

(西郷村立羽太小学校教諭)

 

 

 


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