教育福島0166号(1992年(H04)10月)-006page
提言
コインの裏表
日本芸術文化振興会理事長
(前公立学校共済組合理事長)
加戸守行
本年七月まで三年間理事長をさせていただいた公立学校共済組合時代に体験したことからの感想である。
公立学校共済組合友の会の主催する年金受給者(したがって長年の教職勤務経験者がほとんどである)を対象とした講演会の休憩時間中に、次のような会話がふと耳に入った。
A「後輩達のお蔭で、きちんと年金がもらえるなんて、ありがたいことだよなァ」。これに対して、B「在職中に掛金を払ってきたんだから、当然のことで、胸を張ってもらっていいことだ。それにしても年金額は少なすぎるよ」。
同一の事象についてさえ、A氏とB氏のように反対の感概が出てくるあたり、聞いていて面白いと思った。お二人が年金制度の仕組みに関してどの程度の知識をお持ちかは判らないが、おそらくはお二人の人生観の違いに由来するものでないかと想像する。
公立学校共済組合理事長に就任して最初の大仕事が長期給付財源率(年金の掛金率)の引上げであっただけに、専門的な説明は避けるが、将来の年金財政の危機的状況を知る身として、現在はその立場を離れていても、年金問題は気にかかってならない。
ところで、欧米諸国では、権利とか自由について述べられるときに、硬貨にたとえて、「権利と義務はコインの裏表」、「自由と責任はコインの裏表」という言葉が用いられる。これは、権利や自由を主張する場合の行き過ぎを抑制する意味