教育福島0182号(1994年(H06)10月)-013page
け、限られたコマ数内に三十三人の児童をマンツーマンで指導できるよう配慮している。また、障害の程度に合わせて指導回数を決め、より効果的な指導学校できるよう位置づけている。
しかし、全員が多くの時間を過ごす通常の学級の授業に支障なく、通級できることは難しいが、それを最小限にとどめながら指導の効果を上げていくことがポイントとなると思われる。
3 指導の実践
(1) 指導の工夫
三人の教師が三十三人の児童を担当して効果的に指導するには、様々な工夫が必要となる。そこで、次のような方針のもとに効率よく指導を行ってきた。
1) 障害の程度に応じて週当たりの指導回数を決め、随時柔軟に対応できるようにする。
2) 定期的にケース会議を開き、最も望ましい指導について検討する。
3) 専門機関が発行している最新の文献を基に研修を行う。
4) 指導記録を系統的に分析し、指導方針や指導計画を随時改善する。
5) 保護者にも指導に参加してもらい、家庭での協力を求める。
(2) 指導事例
ここでは、指導の工夫5)によって効果的な指導を行うことができた事例を紹介する。
◎D児(女)の様子
1) 障害の状態 軟硬口蓋裂
2) 主訴 サ行、ハ行の発音がよくできない。
3) 年齢 指導開始当初、六歳三か月
4) 児童の実態
ア 生育歴 生下時体重三二七〇グラム。発音は気になっていたが、家族間の意思疎通には不便がなかった。
イ 家族構成 両親、祖父母、姉、弟の七人家族。
ウ 医療歴と教育歴 就学時健康診断後、K病院を紹介され、一か月後に口蓋閉鎖手術を受ける(六歳三か月時)。退院後、病院の紹介により当教室で検査・相談を受ける。以後週一回の指導を受ける。
エ 指導開始当初の様子 母音/W、0/及び破裂音、破擦音、摩擦音のほとんどが鼻音化し、/h、F/は母音化していた。
オ 指導のねらい 声門破裂音、母音化、鼻音化を改善し、心豊かにコミュニケーションができるようにする。
カ 指導方針 開放的な心理状況のもと、快い環境の中でD児の心理的ニードに適合した教材教具を提供し、喜んで取り組めるようにする。指導の場には母親にも参加してもらい理解と協力を得られるようにする。
キ 指導経過 指導の前半では感覚統合用の教材や学力補充用の教材を使って一緒に遊んだり、歌を歌ったり、動物の鳴き声や動作の模倣をしたりして心の解放に努めた。特に、ゆっくりしたささやき声に強弱とリズムをつけた模倣遊びには興味を示した。
そこで、短くしかも内容の簡単な絵本を用い、ささやき声による分かち読みを続けた。すると/t/は鼻咽腔閉鎖機能も良好で発音も明瞭になってきた。さらに、指導の仕方を理解した母親にも、ささやき声の模倣訓練を家庭での入浴時に行ってもらった。その結果、短期間で指導の効果が見られ、わずか二か月で/t/はもちろん/k/も改善された。
ク まとめ
入浴時は心が解放され、ささやき声が増幅するため一層効果的だったのだと思われるが、何よりも週一回の指導を母親の参加により家庭の協力を得て効果的にできたことがよかったと思われる。
4) 終わりに
各地域の実態に応じてこの新しい形態の教育が定着するまでは、いろいろと多くの課題があろう。しかし、個々の教育ニーズに応じて、個別的な指導計画をもって個別に指導できるこの通級による指導を、指導現場と行政とが一体となって育てていかなければならない。そのためには、通級による指導の成果を上げ、望ましい実践を積み重ねていくことが、今切に求められている。
〈引用文献〉
○季刊 「特殊教育」No75
特集−通級
「言語障害児に対する通級による指導の実践」
〈参考文献〉
○「通級による指導の手引き」
文部省特殊教育課内特殊教育研究会編著
○文部省初等中等教育局長通達
平成五年一月二十八日付文初特第二七八号