教育福島0196号(1996年(H08)07月)-030page

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図書館コーナー

近未来図書館への展望

 

身近にある図書館ですが、その歴史は紀元前七世紀頃、メソポタミアに造営されたアッシリア王アッシュル・バニパールの王宮に三方点を越える資料を所蔵していた図書館が最古といわれています。身近なものであるがゆえに古くから存在したのかもしれません。

図書館は、社会的要請によってその機能、すなわち活動内容が変わってきました。機能分化として利用対象により学校図書館、専門図書館等があげられます。公共図書館に限っていえば、すべての住民の広い意味の学習権を最大限に保障するためにあらゆる資料を提供する機関とされています。

この社会的要請は、生活様式の変化や科学技術の進歩により生じると考えられます。そこでコンピュータが家電のように普及した点と、更に最近ではインターネットをはじめとするネットワーク技術の進歩の二点から生じる社会的要請から、近未来の図書館の展望を利用者の立場から論じることにします。

図書館の電算化で一般に行われているのは貸出返却、検索等の業務の効率化です。更にコンピュータが各家庭に普及し、そのコンピュータがインターネットなどのネットワークに接続できるようになると各家庭のコンピュータから図書館へアクセスし、図書の検索ができるようになります。つまり、自宅にいながら自分の探している資料の所蔵確認ができるようになるわけです。実際に千葉大学附属図書館等はインターネットに自館の所蔵データを公開し、インターネットから所蔵図書の検索ができるようにしています。

次に求められる機能はやはり、自宅から本の内容が見れる機能になると考えられます。これは一般に電子図書館と呼ばれています。電子図書館は本の内容を電子化、つまりワープロのように文字を入力して電子データにしてしまうわけです。ここで重要な点は、コピーしてしまうのではなく、文字を入力することです。この方法によると本の内容に対しても検索ができるようになるわけです。

しかし、ここで著作権が問題となります。例えば、著作権法では図書のコピーは、図書館の所蔵する資料を図書館に設置してある複写機により、内容の半分以下をコピーすることは認められています。ネットワークからアクセスしてデータのダウンロードすることは図書館に設置している複写機によるコピーと見なせるかが問題となります。その他にも著作権に関する問題が存在し、その解決までにはかなりの時間がかかりそうです。

しかし、著作権には期限があるために著作権がなくなったものを電子化する計画がアメリカで行われています。これは「グーテンベルク計画(Project Gutenberg)」と呼ばれ、電子データにして自由に利用できる文献を提供しようという目的で、一九七一年に開始されたプロジェクトです。組織的な事業というよりも、当初は発案者の個人的な関心で開始され賛同者が内容の入力や校正の仕事をボランティアで協力したり、資金援助をしたりして進められています。このプロジェクトでは、今世紀末までに一万点の著作を提供することを目的としています。このデータは、インターネットで提供されているほか、CD-ROM版としても提供されています。

この計画を日本で行うには文字という問題にぶつかります。コンピュータ上で扱っている文字はJIS規格により制定されて、この文字だけでは著作権が切れた図書を入力しようとしても無い文字が多く、その置き換えが必要となってきます。そうとなると原本と相違が生じてくるわけです。グーテンベルク計画でもコンピュータでの扱いを優先して古い文字を新しいものと置き換えていますが、日本の場合にはその置き換えが比較にならないほど多いと予想されます。

近未来の図書館では、自宅から図書の検索と所蔵確認までは行えるようになると考えられます。コンピュータの普及とネットワークの充実により図書館はより身近なものとなりますが、実際に図書館へ足を運ぶ人は減少するかも知れません。しかし、この技術の進歩により今までは図書館を利用できなかった地域の方々に、利用の機会を提供できるようにすることは図書館の理念からも重要なことです。そして地域に関係なく身近な図書館になる展望が必要不可欠であると考えます。

 

 

 


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