教育福島0202号(1997年(H09)04月)-049page
博物館ノート
わが国の代表的な農書
『会津農書』
福島県立博物館総合展示「近世」の部屋に、「会津農書の世界」があります。『会津農書』は、貞享元年(一六八四)幕内(会津若松市神指町)の肝煎佐瀬与次右衛門によって著述された農業技術書です。与次右衛門は、当時自立しつつある農民(小農民)たちに、会津地方の農業の方法についてわかワやすく解説することを目的に「会津農書」を書いたと序に記述しています。
『会津農書』は、上・中・下の三巻からなり、稲作・畑作・農家事益部とにわけ、会津地方の自然に応じた農業の方法を記述しています。その内容も与次右衛門の体験と実験、その報告という形式をとり、具体的に記述されている点、大きな特色のひとつです。文字の読める農民の少なかった当時、与次右衛門は『会津農書』の内容をもっと知ってもらおうと、和歌でつづった『会津歌農書』を宝永元年(一七〇四)に著述しています。与次右衛門の徹底した指導ぶりがうかがえます。また、わが国の農書の代表ともいわれる宮崎安貞の『農業全書』元禄十年(一六九七)より十三年も早い、古典的価値を有する農書として、わが国の代表的な農書のひとつです。
『会津農書』の技術は、現代農業にも脈々と生き続けております。
佐瀬与次右衛門の農業指導図「会津孝子伝」
宝永7年(1710)、森俊一氏蔵、本館寄託
「会津歌農書」の本文
「会津歌農書」写 弘文3年