教育福島0209号(1998年(H10)02月)-032page

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心に残る一冊の本

 

教育者の再確認

元県立猪苗代養護学校長

関川正道

 

緊張を感じていた時に福井達雨氏の「僕アホやない人間だ」に巡り会いました。

 

特殊教育関係に勤務することで、今までの教育内容と異なる場面に直面することになり、ある種の緊張を感じていた時に福井達雨氏の「僕アホやない人間だ」に巡り会いました。

彼は、世間から冷たい目で見られたり、隔離されている、重い知恵遅れの子供たち(自分で食事・排泄・着脱等が出来ない=これが出来るようになることが子供たちの自立)の施設「止揚学園」を設立しました。その施設で試行錯誤しながら、時には職員と共に徹夜をして弱い生命を病から守り、日常生活においては厳しさと愛情を交えての様々な訓練や躾を実践し、子供たちを自立させていく内容の本です。

文中で、「可能性のない人間なんているのでしょうか。この子供たちは人間なんです。そして教育とは、どんな子供にも可能性を信じ努力することなんです。その可能性を放棄してしまったら、重い知恵遅れの子供の指導というものはなくなってしまうのです。」

「教育というものは、どんな時でも可能性を信じて行うもので、駄目と思って教育を捨ててしまったら、この子供には人間回復なんて生まれない。何もできない子供であるからこそ、可能性を信じてやるのです。」

「教育というものは、人間を軽蔑しないことだし、駄目な子こそ、なお真剣に人格と人格とをぶつかっていくのです。本当の教育者とはそんなものではないでしょうか。」と、実践を通して述べる言葉は、私の緊張感を解消させただけでなく感動さえ与えてくれました。また、児童生徒に対する対応の在り方についての礎(いしずえ)ともなりました。

対象によって、教育内容・指導法等の差はあれ、人間教育に徹することが教育者の理念と実践であると再確認させられました。

価値観のとらえ方はそれぞれ違いますが、時代の潮流と共に変化を余儀なくされている教育の中で、深く考えさせられた良書でした。

 

本の名称:僕アホやない人間だ

著者名:福井達雨

発行所:柏樹社

発行年:初版 一九六九年五月一日

四十六版 一九九四年十月一日

本コード:ISBN 四-八二六三-〇四〇一-三c〇〇三七

 

私の重要参考文献

県教育庁スポーツ健康課指導主事兼学校体育係長

吉田政勝

 

そのような中、大学生活も終わりに近づいた頃に出会ったのがこの本であった。

 

学生時代に本気で取り組んだもののひとつに、長距離走をいかに速く効率よく走るにはどうすればよいか、ということがあった。具体的には、自分や仲間を実験台にして運動生理学面から主に呼吸循環器系の実験を行いそのデータを分析し、それを毎日のトレーニングで実践するということである。研究を進めるに当たって、先行研究論文や専門書に接する機会が多かったわけであるが、そのような中、大学生活も終わりに近づいた頃に出会ったのがこの本であった。

猪飼氏は、生理学の世界的権威であり多くの研究実績を残されている。学生の私にとって、研究者といえば、その道一筋という感が強かったのであるが、この本を読んでみて初めて他の分野においても多才であり、人間としての幅の広さや生き方のすばらしさを感じとることができ、改めて氏の偉大さを知ることができたのである。

卒業の際、住んでいたアパートには後輩が住むことになり、大部分の物は部屋に置いたままであったが、持ち帰った数冊の本の中でも最も大切な一冊である。その後も折にふれ目を通しているが、いつでもその理論の確かさとともに新鮮さを感じるのである。内容的には「心」「信」「身」の三部構成であるが、教育に関するものも多く、心の教育などの現代の課題に対しても心理学面からのアプローチはもちろんのこと、生理学面から子供を理解することの必要性を強調しているなど、その考え方の基本は今でも十分通用する内容である。

日々の生活の中で自分の考えをまとめなければならない時、物事を多方面から見つめ、判断できるようにと心掛けているがなかなか思うようにいかないでいる。この本が教えてくれた、幅の広い視野の中で物事の本筋を鋭くつき、考えをずばりと表現できるようにするため、これからも座右の書として大切にしていこうと思う。

 

本の名称:猪飼道夫随筆集

著者名:猪飼道夫

発行所:(株)ベースボール・マガジン社

発行年:一九七三年十月三十日

 

 

 


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