教育福島0210号(1998年(H10)04月)-032page
心に残る一冊の本
返事はなぜ「ハイ」なのか
元喜多方市立関柴小学校長
小荒井実
名前を呼ばれたらハイと返事が返ってくる。明るい声の返事なら心が通じお互いの信頼感も増してくる。ウンとかウーン、ハイハイなどは何か物足りない感じがする。ヘイヘイやハッは封建時代のへりくだった感じが払拭できない。そうかと言って全く無言返事では無視されているようでいただけない。ハーイでは間延びしている。ハとイの間をできるだけ短くした元気のよいハイの返事は快い期待感と生き生きとした人格の表現と思ってきた。
返事はなぜ「ハイ」なのか、返事の指導をするたびに疑問に思ってきたが語源を探ることはできなかった。辞典などにも納得する説明はない。この本にはハイについて実に十ページに渡って詳細な考証を試みている。
ハイ或はハエと言う地名から始まり返事のハイヘ解明されている。しかも断定的な意見はなく、読む人が自由な発想を展開できる文章となっている。
著者の説くハイの考察を概略する。地名のハイ、ハエは「せり出した広い地形」であること。南風をハエと呼ぶこと。芸能のハイはエネルギーの突出を現すこと。更にハは歯、刃、羽、葉に辿るとこれらはいずれも出る状態で、力を持って立ち向かう姿を現していること。返事のハイは人々のエネルギーの突出と活力の表出する状態から発する言葉という。
このようなハイの返事の由来を説きながら子供たちに話しかけたら良かったと今は後悔している。
退職は生活環境が一変し、活力持続力、探求心など総てが減退してとかく無気力になりがち。そんな中にあって本をめくれば泉のごとくわき出る知識は明日への期待感を持たせてくれる。元気のよいハイの返事をしようと思う。
本の名称:民族と地名1)・2)
著者名:谷川健一
発行所:三一書房
発行年:一九九四年六月十五日
本コード:ISBN 四-三八〇-九四五二八-六
こころの出会い
教育庁総務課企画班主任管理主事
田辺英憲
どうして学校があるのかな。
どうして学校に行くのかな。
つまんないのに。
おもしろくないのに。
だけど、どうしてやめられないのかな。
どうして忘れられないのかな。
好きなのかな。
本当は好きなのかな。
恥ずかしながら、私は、こんな詩を書いた一人の生徒をとおしてこの本を知った。進むべき道が見えずに苦悩している最中に、彼女はこの本に出会い、また直接作者と会って、一筋の希望をつかむことができた。と同時に、教師である私も、心の成長の助走期にある若者の心理の一端を、別の角度から知ることができたのである。
この本の作者は放浪の詩人である。学校の教師とは違った語りかけがある。私のような四角四面な人間には、とりわけ新鮮に映る詩ばかりだ。
弱い人間が強くなる。何も持たない人間が夢を成し遂げる。誰もかかわってくれなかった人間が、あとで素晴らしい生き方をする。
そんな人生のすごさ、面白さを感じさせるこの本は、若者にも、子をもつ親にも、そして学校の教師にも、生きることの素晴らしさを教えてくれる。
心の教育の充実が求められる今、自分の古き良き学生時代を振り返ってみる。基本としてそこにあったのは、特別目新しいことではない、教師と児童生徒の日常のふれあいやコミュニケーションではなかったか。
もう一度、この本を手にしてみる。裏表紙に「すてきな若者たちをそだてて下さい」との著者メッセージ(自筆)が見える。この本は、立ち直りのきっかけを見つけた彼女の、そして著者の、私への激励の贈り物だと思っている。
本の名称:ヒューマンドラマこころの出逢い
著者名:須永博士
発行所:エフエー出版
発行年:一九八八年四月二日
本コード:ISBN 四-九〇〇四三五-五九-七