教育福島0212号(1998年(H10)07月)-035page

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大脳の意識で「ものの見方」を探る

県教育庁生涯学習課社会教育主事

山下富夫

 

て、何とか打破するすべはないだろうかと案じていたときに出会った本である。

 

子供の言動、授業、行事、研究会など、教師は人間の行いを見つめることも仕事であり、見つめた後何かをしなければならない。この「見つめ方」「ものの見方」に新たな足がかりを与えてくれたのが本書である。当時勤めていた学校は、小規模で諸行事の企画運営の中核にならざるをえなかった。前年の通りであればそれですむことではあったが、仕事も日常生活もマンネリ化している自分にとって、何とか打破するすべはないだろうかと案じていたときに出会った本である。

フェイズとは、事故を引き起こす人間のミスの分析に役立てようとした安全人間工学から生まれた大脳の意識レベルのことである。0から4までの五段階に分けている。フェイズ0は寝ている状態であり、フェイズ4は、極度に緊張したり興奮したりしている状態である。フェイズ3は、大脳の活動がかなり活発で、適度な緊張と注意力が働いている。事態の分析力や予測能力がもっとも発揮される。したがって、あまりミスは生じないし効率的である。

著者は、フェイズ3の理論を長々と書いているわけではなく、政治・外交・軍事・経済・社会、そして日常生活に至るまでのあらゆる出来事を大脳の意識レベルというフィルターにかけて見つめ、見えたものを述べているのである。

今後、情報の氾濫はますます増幅することは間違いない。さらに、社会生活は複雑化し、子供の事件が続発する事態において、教育を取り巻く環境は厳しく、物事の判断に、冷静さと目配りとが大変重要になってくる。

十年以上たった現在、改めてこの本を読んでみた。自分の「ものの見方」がまだ一方的で偏っている。さらには、知識や分析力に厚みも深みもないことに気づき、進歩のなさに落胆している。

 

本の名称:フェイズ3の眼

著者名:柳田邦男

発行所:講談社

発行年:一九八四年二月十三日

本コード:ISBN 四-〇六-二〇〇九八九-七

 

心豊かな成長を

鹿島町立真野小学校教諭

星洋子

 

先生、この本知ってる?私大好きなの!」と差し出した一冊の本。「若草物語」。

 

何となつかしいのでしょう…。クラスの子供が「先生、この本知ってる?私大好きなの!」と差し出した一冊の本。「若草物語」。

もう今となっては消えてしまった木造校舎の音楽室。私が小学校四年生の時だったと思う。誰もいないことを確かめては、秘かに光り輝くグランドピアノにそっとふれ弾いていたのは。まるで「若草物語」のベスになったつもりで。

三姉妹の長女として育った私は、活動的なことは好まず、母から与えられた童謡を聴いたり本を読んだりの生活だった。この中でも特に好きだった本が「若草物語」。四人姉妹の生き方を、自分達姉妹と重ねていたのかもしれない。中でも、三女のベスが私は好きだった。隣のローレンス老人宅のピアノを毎日弾きに行く所が、私にとって強く引かれた部分である。単に弾くのではなく、その老人に優しく接することでの代償であるがゆえに、子供ながら「人に優しさを持てば、私も音楽室のピアノにさわれる」という自己意識を持つと同時に教わった部分でもあった。おそるおそる、ピアノにふれることの許しを先生に伺うことは、まるでベスそのものだった。

青少年の犯罪が年々増加していることが報じられている今、心の豊かさが強く求められている。こんな中、この本はどんな苦しい時でも明るい希望を失わず、他人に対する思いやりを忘れることのないこの家族の深い愛の精神こそ、心をうたずにはおかないであろう。子供ばかりではない。愛情深く姉妹を見守り、一家を守る母の聡明さ、思慮深さもまた、私への教訓でもあった。

「先生!音楽室のピアノ弾いてもいいですか?」

今日も子供たちが目を輝かせて私のもとへやって来る。「どうぞ!」すっかりローレンス老人になったつもりの私。豊かな心、感動する心の持てる子供を願って…。

 

本の名称:若草物語

著者名:オルコット

発行所:ポプラ社

発行年:一九五九年十月

本コード:ISBN 四-五九一-〇一〇四〇-六

 

 

 


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