心に残る一冊の本
教育は一瞬にして永遠である
西郷村立小田倉小学校教諭
根本 くみ子
教員になったばかりの私に、恩師のW先生から一冊の本が贈られてきた。それは尚志学園を創設された佐藤信先生の御著書「人づくり教育」である。
念願の教師になったばかりの私が、教師として、人間として、どのように生きるべきかを模索していた時期だったので、夢中で読ませていただいた。そして、佐藤先生の数々の実践と理念の中に表現されている「教育とは生きた人間の肌のふれ合い、心のぶつかり合いのなかにのみ成立するものである」ということに強く感銘を受けたのである。
本書に登場するS子・T子・ゆみ子・I子等の女子高校生は、それぞれの人生を精一杯燃焼し続ける。その彼女たちに、教師として人生の師として、全身全霊をぶつけて人間らしい人間を育て上げようとする様子が記録されている。時には温かく、時には厳しく、そこには教育の原点を見ることができる。それは、感動的である。
教育とは生物学的「ヒト」を、いかにして「人間らしい人間」につくり上げるかである。「入間を作る・人格を形成する」ためには血の通った愛情を持った親と教師のみがこれを達成し得るのである。
今、マスコミでは、「いじめ・不登校・学級崩壊」等の記事が毎日のように報道されている。教師として身のひきしまる思いに駆られることも少なくない。
二十一世紀を目前にして、教師として今まで以上の理念と信念とを持って、日々の教育活動にあたりたいと思う。
教員生活の折返点を過ぎた今、子供たちの心に何らかの灯をともしてあげられるよう、私自身が、「いなかる苦難にも屈せず、現実に全力を傾倒し、自らの力で未来を切り拓いて行く魂」を持ち続けていきたいものである。
本の名称:人づくり教育
著者名:佐藤信
発行所:婦人生活社
発行年:1980年10月15日
私の一冊双葉高等学校教諭
五十嵐 栄二
まず、著者の保田春彦という名前は、余程の美術愛好家か美術関係者以外には馴染みの薄い人名かもしれない。しかし、著者は、今日、日本を代表する芸術家の一人であり、東京の有名大学の教授という要職もつとめている。
私が初めて保田春彦という名を耳にしたのは今から十年程前の画学生の頃である。私が当時師事したW氏は著者と上野の美校(現在の芸大)以来の旧友で、以前著者とWは同じ院展という展覧会で腕を競い合っていた。また、著者とWは美術留学生として、著者はパリに二年、ローマに八年、Wはローマに十五年という長い滞欧生活を共に経験している。そのようなことから私は美術のゼミの時間にWから「ヤスダ」という言葉を耳にしたのだ。これは余談であるが、Wから「ヒラヤマクンは学生時代は俺の後輩だが云云」と「ヒラヤマクン」が初め誰のことか理解できなかったが、後に平山郁夫氏のことであると聞かされ、画学生にとって神様のような存在である平山氏の学生時代のことを知るWに対し改めて尊敬の念を抱いたことを記憶している。
さて、肝心の本についてであるが、第一章はローマの寺院、遺跡を、第二章は著者の現代美術への提言を、第三章は著者の師及び著者と同じく芸術家であり大学教授であった亡き父親のことを中心に展開している。
特に私が興味をもったのは「それまでに一度として美術の道に自らの才能の一片すら自覚したこともなげれば、天職と享けとめるほどの啓示を感じたわけではない…(省略)…苦しみ紛れの選択であったとしか言いようがない」「幸いなことに、良き指導者に恵まれた」と述べている点である。私とは次元が異なるとは思うが、私自身も常日ごろ実感していることであるだけに心に残った。
そして、芸術に少しでも興味を抱いている方にぜひ推薦したい一冊とし、この文章を締め括りたいと思う。
本の名称:造形の視座から
著者名:保田春彦
発行所:形文社
発行年:1998年11月26日