教育福島0221号(1999年(H11)9月号)-045/52page
要な援助を加えて指導をしてきた。 その結果、うれしそうに大きな声を出したり、にこにこと笑ったりと生き生きとした表情をたくさん見せてくれるようになった。また、繰り返し指導したことで、次にどういう内容になるかに気付き、期待して待つなど、活動に対して少しずつ見通しがもてるようになった。そして、精一杯声を出して感情や意思を伝えようとしたり、対象物に一生懸命、手を伸ばしたりと主体的に活動に取り組む姿が随所に見られるようになった。こうした経験の積み重ねから得たものを、今後の生活の中で生かしていってほしいと考える。担任となった当初から、本児の興味関心を大切にした指導を心掛け、活動に主体的に取り組む力を育てていくことを大きなねらいとしてきた。
今回、平成八年度と平成九年度の実践も含めて、これまでの指導を見直す中で、本児の変容(成長)に改めて気付かされることが実に多くあった。
そして、何よりも私自身が、本児のすばらしい笑顔と、活動にいつも一生懸命に取り組むその尊い姿に支えられ、本当に充実した時間を一緒に過ごさせてもらったことに対して、本児への感謝の念を深く抱いた。
今回の実践を通し、興味関心を、大切にした指導の積み重ねにより互いに充実した時間を共有しつつ活動に主体的に取り組む力が少しずつ本児の中で育ってきたことが改めて実感できたことを本研究の成果としたい。
2 今後の課題
(1)興味関心の幅を広げ、その質を高めていくことについて
本児の興味関心に基づいた指導を心掛けてきたが、興味関心のある活動から別の活動に移行することをどの時点で考えるかは難しい問題であると感じた。まずは生徒の立場に立って考えるべき問題であり、あれもこれも教えなければといった教師側の一方的な押しつけになってはならないわけだが、興味関心の幅を少しずつ広げ、質を高めていけるよう次の段階へ発展させる手立てが求められる。
反面、それまで興味関心を示していた活動でも、段々と興味関心が薄れてきた活動もある。そうした生徒の姿を見逃さず、活動に少
しずつ変化を加えたり、反応の様子を観察しながら新しい活動も取り入れなければならない。
(2)他者とのかかわりの中で主体性を高めていくことについて
これまでの指導を通して教師に対し本児自身が自分の要求や意思を伝えようと働き掛ける姿が多く見られるようになった。そうした姿を大切にし受け入れていくことで、活動に意欲的に取り組む力がさらに育っていくものと考える。
今後は、本児の生活がさらに充実したものになることをめざし、できるだけ多くの人たちとかかわりをもつ機会を設けて、その中で相手と意思の疎通を円滑に図っていけるような指導を工夫する必要がある。
(3)健康に留意した指導について
訪問教育を受ける児童生徒の多くは、体調を崩しやすく健康面でも配慮を要する場合が多い。また、週二回各二時間の授業であり、指導の時間も限られている。本児においても、三年間の中で体調を崩し授業と次の授業の間が三週間近く空き、継続した指導が困難になったことがあった。
常に保護者との連絡を密にし、その日(必要に応じてそれ以前も含めて)の健康状態を確認したり、医療機関からの情報に基づく適切な対応をすることが指導の前提として必要になると考える。
七 終わりに
訪問教育では常に家庭と円滑な意思の疎通を図り、指導について家庭の理解と協力が得られて初めて指導を効果的に進めていくことができるものと考える。今回の実践においても家庭の深いご理解と絶大なるご協力を賜ったことに心より感謝したい。
【参考文献】山口薫監修(一九九四年)精神薄弱教育実践講座第九巻「養護・訓練」日本文教社