教育福島0222号(1999年(H11)10月号)-006/52page

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提 言

生きる力としてのことば

浜  祥子

児童文学作家
浜  祥子

高崎市にある「山田かまち水彩デッサン美術館」を訪れ、十代から二十代の熱心な入館者に深い感銘を受けました。

かまち君は二十余年前の十七歳の夏、エレキギターの練習中に感電死し、八百点余りの絵とおびただしい数の詩、日記、手紙、覚え書きが残されました。

小学三年生のとき描いたというゾウ、サンショウウオ、カマキリ、ライオン、テントウムシなどのタッチの大胆さ、色彩の美しさには息をのむほどです。

若者たちが立ち尽くしてしまうのは、あふれ出るように書き散らされた断章の前です。十代のかまち君が日々の不安をぶつけ、苦悩し、泣き、笑い、「激しく美しく生きろ」と自分を叱陀激励しているその一言一言に、私も体が熱くなってきます。

内なる成長がことばを探して右往左往し、つかんだことばはさらに彼自身の成長を促していく。その渦巻きのような精神の軌跡を目の当たりにするのは感動的です。

伸びずには居れない生命の躍動感が、訪れる若者にストレートに感応しているのがよくわかります。

しらけ世代といわれる現代の子らも、「ことば」の持つ起爆剤としてのパワーに圧倒されているのでしょう。 

やがて、そこに立った者が自分のことばでぽつりぽつりと語り出していくようすが来館者ノートに記されています。

この、発酵を促す作用こそ、教育の本来めざすところではないでしょうか。


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