教育年報1960年(S35)-107/135page

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に強く働きかけている部分を,適当に編成することによ

って,非行傾向児の早期発見のための効率の良い検査が

作成されはしないか,この研究もあわせて行なうことを

目的として,昭和33年度に3カ年計画で着手した。

 第1年度は,家庭環境診断テスト,基本的欲求検査,

性格指導表,クレペリン・内田作業素質検査を。第2年

度は,牛島義友著の性格検査,問題行動診断テスト,

診断性向性検査,道徳診断検査とについて,第1の目的に

沿った研究を進めてきた。その方法は,各検査を構成す

る下位検査または問いに,1)非行への働きかけの程度に

より順位をつけること,2)問いの反応を数量化して非行

を予測することにあった。

 それがため非行または非行の傾向を帯びつつある者の

一群と,正常な者の一群とを設け,これに前記各種の検

査を実施した。1)に対しては,ラザースフェルドの潜在

構造分析を,2)では,グリユック夫妻が犯罪予測に用い

た数量化と,林博士が仮釈放の予測の際に用いた数量化

によった。

 順位づけおよび数量化は,共にまず非行群と正常群と

の間で,問いに対する反応に有意の差の認められたもの

を検出することで,これにはX2―検定を用いた。これは

また第2目的である,非行傾向児の発見を唯一のねらい

とする性格検査問題作成の第1段階を行なったことにも

なる。

b 研究の目的

 非行傾向児の早期発見を唯一の目的とする性格検査の

作成は,先の“研究の経緯”に記したごとく,3力年計

画をもって着手した。非行傾向児の早期発見に関する研

究の一つの分節である。

 ここで作成しようとする性格検査は,検査がねらいと

する諸特性について被害者を浮彫りにし,そこから生活

指導の手がかりを捉えさせようとするのではなく,被検

査の非行への可能性を確率的に示そうとするのである。

すなわち検査を構成する問いに,非行への統計的な関連

度に応じた数量を与え,これの総和に伴う非行への可能

性を,確率で表わすことのできる検査用紙を作成するこ

とにある。

c 検査用紙の作成

 いくつかの性格特性をあげ,これらの特性を捉えるた

めの質問紙を構成するのではなく,第1年度および第2

年度に用いた諸種の検査で,非行の弁別に役立った問い

を集めて,非行傾向児の早期発見に効率のよい質問紙を

作成するのが目的である。したがって,ここに,これら

の問いをどのように組合せたら,先の目的をもった質問

紙ができるかという問題がある。

 まず一方の軸に環境への適応,自己統制,情緒性を,

他の軸に個人,家庭,学校,社会をとって枠組を行な

い,次いでこの枠に先の問いを位置づけることにした。

その結果は,情緒性の領域に含まれる問いの数が少な

く,情緒性を1つの領域として止めておくことには,無

理があると思われたので,これを廃した。その代り,こ

れに,どの領域にも位置づけられず,しかも非行を弁別

する力のある問いを加えた。この問いの1団を“その他

”と呼ぶことにした。他の軸では,環境,環境への適応

の領域は,問いの配分に均衡を保てたが,他の領域で

は,不均衡とならざるを得なかったので,これにこだわ

らないことにした。

 このように編成した結果,環境,環境への適応,その

他の3領域には各20問,自己統制には25問が配置され,

全体では85問となった。

 第3は林博士の数量化を適用するためには,定性的な

サブ・カテゴリーの数が4つ以上とされていることから,

ここに取り入れた問いへの反応を4つにすることである

しかるに問題行動診断テストと家庭環境診断テスト以外

は,反応が“はい・いいえ”または“はい・いいえ・?”

である。そこでこれらを問題行動診断テストにならって

問いに対する答えを4つの選択肢によって行なわせるこ

とにした。

d 非行群と正常群にあらわれた反応の差異

(1),非行群と正常群の設定

 グリユック夫妻および林博士の数量化は,共に問い

の反応に対する非行群と正常群の度数分布を基としてい

る。

 そこで福島,郡山,須賀川,会津若松,磐城,内郷市

内から11の中学校を選び,その学校の第2学年の生徒を

もって,非行群と正常群を設定することにした。

 各学校とも在籍者の1割程度の数だけ,非行または非

行化の程度に従って順位づけた名簿を持ち寄り,学校相

互にその実状を話し合った上で,非行群として200名を

決定した。この数は在籍者の5.03%に当るものである。

正常群にはその学校の非行群に属する生徒の数だけ,正

常の生徒の中から無作為に抽出してこれに当てることに

した。

(2)X2―定

 上記の非行群と正常群に研究所の性格検査を行ない,

両群の各問への反応の差異をX2―検定によってたしかめ

た。各問の の値は1表にみられるごとく,1%の危険

率で差異の認められないものは僅かに7である。従って

著しく有意差の認められた問いは78で,全体の89.4%に

あたる。これを34年度の牛島義友著の性格検査の37.5

%,問題行動診断テストの58.0%に比らべると相当に大

きな数であることが判る。


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