教育年報1960年(S35)-126/135page

[検索] [目次] [PDF] [前][次]

新鮮味のとぼしい資料が多く,新しい資料,特に映画化

された小説や,新進作家の作品が少ないことも影響して

いる。つまり,図書購入費が総体的に少いことを立証し

ているようである。

 利用者を職種別にみた場合,学生は別として,銀行会社員,

公務員,商業の順で,農業が最下位である。無職

主婦,その他が一般成人より上位にあるのは,浪人をふ

くめているためで,順位外にした。農業の最下位は昨年

度より県北郡部の農村地帯に移動図書館が巡回し,団体

貸出を活発にしているので,むしろ他職種と同一水準ま

で達していることも予想される。

B 利用された図書とその内容

 利用人員の減少に伴い,利用図書冊数もまた,年間を

通じて19,180冊程度減少を示している。利用人員と利用

冊数の割合も極めて不均衡で,利用冊数は利用人員の56

%に過ぎない。いわゆる「場所のみの利用者」が44%を

占めていることになるが,本は開架式書架の関係上,書

架内で立読みをする者と,参考室で辞典,年鑑等の利用

者は,利用票に記録として現われないため,実質的の利

用冊数は相当増加する見込みである。

 いづれにしても,場所のみの利用者が毎年増加する傾

向にあることだけは確かである。

 一方,一般成人を対象とした読書内容をみると,文学

社会科学,歴史の順に読まれており,特に文学では全集

ものが多く,著者としては,五味康祐,井上靖,谷崎潤一郎

の作品が目立って利用されている。しかし,これを

もって一般社会の読書傾向と判断するのは早計であり,

むしろその館の資料収集方針によって影響されるもので

ある。

C 参考事務の処理状況

 昨年10月,利用者の便をはかるために,目録室を模様

替えして,独立した読書相談事務を開設したが,10月か

ら12月までの処理状況を集計して見た。その結果の概略

は下記のとおりである。

 口頭電話によるもの     84件

 参考室用図書の利用者  24名,1日平均5名

 処理した内容の主なもの 工業,経済,社会,郷土資料,産業

 利用者職種別      会社員,公務員,教員の順

 文書によるもの      19件(県内5件,県外14件

 以上の処理状況からみて,この利用者の職種別と処理

内容においては,一般図書資料利用者と逆の結果がでて

いる。このことは,公共図書館利用者の対象である一般

社会人,特に会社,工場,官庁勤務者の利用が多く,内

容においても職業的に,実生活に必要な資料を利用しよ

うとしていることを示している。

 こうした結果からみて,この分野の強化充実と,PR

は絶対欠くことのできない館内奉仕の努力すべき部門で

ある。

D 施設の利用状況(別表参照)

a,展示室

 図書館界より注目の的になっている展示室の効果的運

営と,その利用状況は,昨年とほぼ同様である。

 開催された展示種目は殆ど美術展が多く,一般大衆の

関心もうすらぐ傾向にある。今後は郷土芸術,産業,観

光関係の展示会を開催するよう関係各部に働きかけたい

b,自由読書室

 音楽愛好者のために毎月1回,閉館後同室でレコード

コンサートを開催する一方,休館日を利用し研究集会,

講演会等の会合に各種団体の要望に応じ開放している。

c,本館見学者来館状況

 昨年度までは,新築直後のため,県内,県外各地から

関心を寄せられ見学者も相当あったが,今年度は2年余

も経過している関係上,昨年度の1/3に減少しているのは

当然かも知れない。

E 今後の問題点

a,学生生徒の利用対策

 (イ)収容人員拡充の具体化

 (ロ)学生,生徒に対する読書指導と資料の利用奨励

b,小・中学生室運営の再検討

 最近の小中学校図書室の充実と,市内児童施設の改善

にかんがみ,県立図書館は小中学校生を奉仕の対象から

除き,その余力を,母と子,父兄と子のつながりをもつ

読書室に切替え,専ら主婦,父兄を対象に奉仕すべきで

あると考えている。特に小中学生は午前から午後3時頃

まで学校教育に追われ,図書館に足を運ぶ余裕がなく,

その間,同室は空白を生ずるので,合理的運営の面から

考えても,小中学生に対する奉仕は再検討の余地がある

c,浪人利用者の実態からみた浪人対策(別表参照)

毎年中学,高校を卒業する何割かが高校,大学より締

め出され,浪人という名のもとに,予備校や図書館を唯

一の場所として受験準備に専念する姿は切実なものがあ

る。試みに,今年度この種の利用状況を集計してみたが

予備校に学びながら図書館を利用する者と,図書館のみ

に依存する利用者とに分けられ,殆ど一日を図書館で過

す純然たる固定利用者もいる。そのために館内利用者の

新陳代謝の対象外にあり,現役学生,生徒へのしわ寄せ

的存在でもある。従って,その数においても,10月から

3月までの混雑期の大学生利用者に近い数字を示してい

ることは,結局,現役学生の入館量に影響している。

 このように図書館利用者の定連ともいうべき浪人が,

図書館に殺到することの是非はともかくとして,各学校

においても浪人に対する教育方針を樹立するとか,高校

在学年限を延長するとかして,この問題を解決する段階

に直面しているようにも考えられる。

 しかし,これは大きな社会問題でもあり,国の教育方

針にも関連があるので,図書館としては,どうにもなら

ない問題である。

 浪人教育は,学校教育の分野にすべきか,それとも,

社会教育に結びつけるべきかについての限界を示す必要

に迫られているのではあるまいか。

d,参考事務の強化充実により,一般成人利用開拓のた



[検索] [目次] [PDF] [前][次]

Copyright (C) 2000-2001 Fukushima Prefectural Board of Education All rights reserved.
掲載情報の著作権は福島県教育委員会に帰属します。