教育年報1964年(S39)-217/232page
第3節 館内奉仕
図書館が一定の座席を設け,数多くの図書を備えて読
書の機会を一般の人々に提供することは今更言うまでも
ないが,もう一つ重要なことは,図書館が上品な洗練さ
れたムードを持つということであろう。学生生徒の入館
者数が座席数を上まわり,一般人の座席まで侵されるよ
うでは,いつになっても学生生徒の試験勉強の場となっ
て公共図書館としての存在の必然性がでてこない。
そこで,今年度は次のようなことを実施した。
1) 全席を指定席にし(男子学生生徒席70,女子同70,
一般人席50),かりに学生生徒席が満員であっても,
一般人はいつも利用できる状態にした。
2) 図書の購入についても,利用傾向を見て備えるとい
うことから一歩先んじて,利用者の意向を把握するた
めのアンケートをとった。
1 利用状況
(1) 利用者
利用者総数(表5)は110,744人と38年度の124,613人
から見ると,約13,700人少ないが,これは指定席の実施
によって,従来無制限であった学生生徒が,或る程度制
限された結果であり,一般人の利用者数の変動は見られ
ない。即ち38年度と比較すると,
38年利用者総数 124,613人 (学生97,651一般26,862)
39 〃 110,744 〃 (〃 85,324〃 25,420)
となり,学生生徒が約12,300人,一般人約1,400人減と
なっているが,総数における学生生徒と一般人の比率は
76.4%対23.6%となってきており,38年度の78.3%対
21.7%から見ると,僅か2%ではあるが一般人の比率が
上むいてきている。今後は数の上でも一般人の増加を計
るよう努力しなければならない。
職業別で38年度と相違を見せているのは,公務員と会
社員の数が入れ替っていること,農業が38年度の121人
から215人,主婦が同じく38人から70人と大きくのびて
きたことである。これは従来不読者層といわれる人々
が,図書館利用に目を向けてきたことであり,今後これ
らの利用者の助長に大いに意を注がなければならない。
(2) 読書傾向
利用者数の減にともなって,利用図書冊数も59,090冊
と38年度の64,304冊から約6,000冊少なくなってきてい
るが,一般人の大半の利用である館外貸出冊数は13,385
冊と,38年度の13,532冊と大差はなく,数字の上からだ
けの減少はさほど憂うることではないだろう。減少のも
う一つの理由として考えられることは,図書購入費のこ
ともあげられる。即ち,本年度の購入額は38年度とほぼ
同額であり,図書費の値上りから,購入される図書の冊
数は前年度より少ないことになる。一般人の利用される
図書というものは,分類別に見ても明らかなように,い
わゆる文学的なものが多く,図書の即時性というか,や
はりその時々に出版されるものが要求されるので,この
要求を満たし得ねば,利用度の低下はまぬかれない。
分類別利用については表6の示す通りで,文学25.9%
社会科学8.9%,歴史地誌5.7%の順に38年度と変りはな
く,出版される図書の構成比とほぼ対応した数を示して
いる。
その他本年度特に目立ったことは,新聞紙(特に継続
して過年次分よりの)と特許資料の閲覧が多かったこと
である。前者は各官公庁,団体等の各「○○年史」等の
出版のための資料としての閲覧であろうが,これらの資
料の価値からして,今後の保存方法として是非マイクロ
化しておかなければならないと考えられる。後者につい
ても専門の特許権所有者ではなく,市井の人々が身近な
事柄について考案したものを持ち来って調査を依頼され
ることが多かったが,これらの資料について職員にも専
門的知識を修得させるようにしなければならない。
(3) 館外貸出登録者
表7の示すところにしたがってその職業別構成を見る
と,38年度までと著しく異ったことは,一般人と学生の
構成比がはじめて一般人52.4%,学生47.6%とその比が
入れ替ったことである。数の上では学生数が減少したた
め当然であるかも知れないが,一般人についてだけ見て
も38年度742人から757人と僅かに上むいてきている。こ
れらの登録者の館外貸出利用度を見ると1,446人に対し
て13,384冊ということになり,年間1人平均9.2冊とい
うことは決して高い数字ではなく,館外貸出が一般人の
利用の今後の方向とすれば,まだまだこれが増加に努力
しなければならない。
一般人の構成についてみると,総数757人中公務員,
会社員等の知的事務従事者が452人と全体の60%を占
め,農,商,主婦等はまだまだ低い。
次に男女別構成比について注目すべきことは,男715
人,女731人と,38年度までの男女の位置が数の上では
じめて入れ替ったことである。
2 レファレンス・サービス
近代図書館の館内奉仕の特質はレファレンス・サービ
スにあるといわれているが,この機能を十分に発揮する
には資料の充実が前提にならなければならない。
あらゆる種類の人から寄せられるあらゆる種類の質問
を処理するのである。質問者があらゆる階層にわたって
おり,その年齢,職業,教養の程度,そして質問の動機
がこれまた種々雑多である。
表8によって,処理された内容を分類別に見ると,図