レッドデータブックふくしまT 植物・昆虫類・鳥類 -020/451page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

1 植物の概要

福島県は、雪が少なく温暖な浜通り低地から苛酷な気候の2,000m級の高山の頂まで、あるいは豪雪の越後山地まで、その気候傾度の幅はきわめて大きい。また、砂地、湿地、崖錐、渓畔、急傾斜地、尾根、山頂といった特殊な地形も多い。このような立地条件の多様性とその地史的変遷を反映して植物的自然もまたきわめて多様である。今回の調査はこうした植物的自然の実態を植物相、特に希少植物の面から明らかにしようとしたものである。

こうした多様性の実態については、これまで多くの先駆者たちが自主的に調査と研究を続けてきた。植物相についての成果は福島県植物誌(1987)にまとめられており、そのなかでコケ、シダ、種子植物で242科3,408種の記録がある。しかし、それらの細かい生育状況については未だ不明のところが多く、また、多大と推測されるその後の人為的変動についても全般的統一的な確認はなされていない。今回の調査はこれに対応したものではあるが、限られた時間のなかで、広い県土にひそやかに息づいている希少植物の全容を明らかにするのはおよそ不可能である。調査・研究はこれからも続けられるべきものであり、本報告はあくまでもその中間段階にあるものと理解していただきたい。

今回絶滅と判定したものは、福島県植物誌編さんに係わる調査以前に生育が報告されていながら、その後確認されず、今回の調査でも確認できなかったもので、ヌカイタチシダモドキ、ガガブタ、ネコノシタ、ミカワスブタなどである。また、ノコギリシダ、リュウノヒゲモは福島県植物誌編さんに係る調査では確認されていたが、今回、その生育地に対して集中的な調査を行ったにもかかわらず発見できず、さらにその生育地が人為によって生育環境を失い絶滅したとみられたものである。

絶滅危惧T類には、マツバランやハマウツボのように、最近まで生存が知られ、今回は見つからなかったが、まだ見つかる可能性があるものから、ミヤマハナワラビ、デンジソウ、カラフトメン
マといった生育地の極端に少ないもの、あるいはオオアカウキクサ、ウミミドリなど、もともと生育地が少ない上に工事や農薬汚染等で減少傾向が明確に認められるもの、あるいはカザグルマのように、今回の調査でも何カ所か確認されたが、採取圧が相当に強く早晩絶滅する恐れのあるものまで、さまざまな要因によるものが含まれる。

絶滅危惧U類と準絶滅危惧には、これまで生育地が数カ所知られていて、減少傾向は認められるものの当面絶滅の恐れはないものを、その危険性の度合いによって振り分けている。また、希少種には、生育地は限られているものの、当面の間、減少傾向は認められないものを含めている。

こうして見てくると、地域の植物相を指標する植物でありながら、少ない生育地が人為によって損なわれている植物がいかに多いかが実感できる。

森林伐採はどうしても生育環境に与える影響が大きく、蘚類、シダ類などいずれの分類群に対しても、生育を脅かす大きな要因となっている。また、湿地が失われて湿地植物や水生植物が失われることも深刻である。同じことは水質悪化についてもいえる。さらに、土地造成や道路工事といった生育地を直接改変する土木工事も、希少植物を絶滅に追い込む要因となっている。そして、鑑賞などを目的とした園芸(薬用)採取も、これらの価値の高い植物にとっては脅威である。

今回の調査で、県民の日常的な営みのなかで貴重な希少植物がひそやかに絶滅への道をたどっている実態が明らかとなった。一度失われた種を自然の力で回復することは困難である以上、こうした実態にどう対処すべきかの検討が急がれる。これらは、私たちの日々の生産活動や便利な日常生活を維持するという条件のもとでは、具体的にはかなり難しい課題であるかも知れない。しかし、


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は福島県生活環境部環境政策室自然保護グループに帰属します。
福島県生活環境部環境政策室自然保護グループの許諾を受けて福島県教育委員会が加工・掲載しています。