レッドデータブックふくしまT 植物・昆虫類・鳥類 -324/451page
1 昆虫類の概
福島県は、太平洋側に面した浜通り、阿武隈山地と奥羽山脈にはさまれた中通り、そして日本海側の会津地方と気象的、地形的に異なる三地域に区分される。この自然的立地の相違は昆虫分布にも反映され、地域ごとの分布様相はそれぞれに特徴的である。その上、暖地系昆虫には、分布の北限、寒冷地系の種類には南限にあたるものも多く、本県の昆虫分布は極めて多様性に富んでいる。
本県の昆虫類に関する調査研究資料としては、今から100年以上も前の明治時代中期に、生息状況などをまとめたいくつかの報告が残されている。その後時間が経過するとともに情報量は次第に増え、今日に至っている。
これまで、農業昆虫の分野などは別として、一般昆虫類の調査研究は主に民間の愛好者、いわゆるアマチュアの力によるところが大きく、中・大形で多彩な美麗種を含むチョウ目、コウチュウ目、トンボ目などの分類群では比較的調査が行き届いている。しかし、微少で目立たぬ種類では調査研究が立ちおくれており、中には全く手つかず同然のグループも存在する。そのほか、県土が広大なこと、それに対して昆虫研究者・愛好者の層が薄いことなどもあり、県内の昆虫類の生息状況などの解明はいまだに十分なものとはいえず、今後も県内の昆虫相の全貌解明に向けた努力が必要と思われる。
今回「レッドデータブックふくしま」の作成に際しては、ふくしまレッドデータブック作成検討委員会の昆虫類分科会を中核として、「福島虫の会」内に作成調査会が編成されて会員の参加協力をいただき、調査検討が行われた。特に調査対象種の選定にあたっては、これまで比較的分布調査の行き届いているトンボ目、カメムシ目(タガメなどの水棲昆虫類)、コウチュウ目、およびチョウ目(チョウ類)の4分類群に限って検討を加えることとした。
候補種の選考は、まず作成調査会内に設けられた各分類群に対応する専門チームによって行われた。そして、最終的な選定種については、作成調査会の全体会をはじめ、昆虫類分科会、ふくしまレッドデータブック作成検討委員会で順次検討が加えられ決定された。なお、それぞれの目ごとの概要は以下のとおりである。
2 各目の概要
1)トンボ目
トンボ目は日本で197種が記録されている(杉村ら、1999)が、福島県からはこれまでに11科90種が確認されている。
福島県のトンボに関する分布調査は1970年代までは非常に遅れており、空白地帯といっても過言ではないほどであった。しかしながら、80年代になって地域ごとのまとまった調査が行われはじめ、二本松市41種(三田村、1986)、裏磐梯46種(大沢、1986)、会津若松市赤井谷地、磐梯町法正尻湿原周辺52種(横井・三田村、1986;横井・三田村、1987)、梁川町53種(横井、1991)、郡山市65種(横井、1999)など少しずつではあるが県内の分布状況が明らかになってきた。
本県は浜通りの太平洋沿岸から会津の山岳地帯まで非常に変化に富んだ自然環境であることから、そのトンボ相も地域によって特色がある。
まず、浜通りでは他の昆虫類同様、暖地性のトンボが多く、アオモンイトトンボやムスジイトトンボが生息しており、会津地方では少ないセスジイトトンボも多い。また、汽水域に生息するヒヌマイトトンボや海岸近くの池沼に多いタイリクアカネが太平洋沿いに分布している。大熊町熊川河