レッドデータブックふくしまU 淡水魚類/両生類・爬虫類/哺乳類 - 044/122page
1 福島県に生息する哺乳類の概要
福島県は、北海道、岩手県に次いで全国で3番目に広い面積を有し、南北に走る阿武隈山地と奥羽山脈によって、気候的に温暖な太平洋岸の浜通り地域、阿武隈川沿いに平野が広がった穏やかな中通り地域、豪雪地帯の会津地域の3地域に分けられる。森林面積も全体の約70%を占めており、「森林との共生」を目指す森林県であることもあって、原生的な植生を有した地域も存在する。その中でも、特に福島・群馬・新潟の3県にまたがる尾瀬地域は、日光国立公園尾瀬地域であるとともに、昭和35年(1960)に特別天然記念物(天然保護区域)に指定された地域で、全国的にも貴重な自然環境となっている。
この尾瀬において、ホオヒゲコウモリに属するコウモリが昭和26年(1951)に1個体捕獲され、後にこのコウモリは新種オゼホオヒゲコウモリ(Myotis ozensis )と命名されて報告された(Imaizumi,1954)。捕獲された地点は群馬県側の尾瀬ヶ原(標高1,400mのブナ林)であることから、福島県側での捕獲も期待された。しかし、オゼホオヒゲコウモリは福島県側では捕獲されず、今まで合計2個体が捕獲されたのみで、改訂版レッドデータブック(環境省,2002)では情報不足(DD)になっている。
福島県に生息する哺乳類の生息状況調査に関しては、残念ながらこのオゼホオヒゲコウモリの置かれている状況とあまり変わりがなかったが、今回の作業によってようやく哺乳類の全体像が把握できるようになった。特に、コウモリ類のカスミ網調査に関しては、種々の捕獲許可証の発行までに時間を要し実施すること自体が困難であったが、環境省・文化庁等の協力により、おおいに成果をあげることができた点は大変評価されるところである。
コウモリ類で代表されるように、これまで福島県で哺乳類の生息確認調査がなかなか進展しなかった理由は、調査の実施が困難な広大な面積をもつことに加えて、哺乳類自体が生息個体数の少ないものが多いこと、生息地が局限していること、夜行性のものが多く確認作業が困難なこと、また、場合によっては特殊なトラップを使用しなければならないこと、さらに、哺乳類の研究者が他の動物群の研究者に比べて極めて少ないことなどがあげられる。
しかしながら、昭和40年(1965)に「福島県史」を発行し、その中の「自然・建設編」(福島県,1965)において、霊長目(現在はサル目)1種、翼手目(コウモリ目)4種、食虫目(モグラ目)4種、齧歯目(ネズミ目)13種、食肉目(ネコ目)12種、偶蹄目(ウシ目)2種の合計36種の生息状況を報告している。その後、福島県内の市史、町史、村史等がまとめられるにつれて哺乳類の生息状況も徐々にではあるが明らかにされてきた。そして、平成3年(1991)に環境庁によりレッドデータブックが発行された。しかし、福島県に生息する哺乳類全体(当時の分類では、8目26科130種・亜種)の分布状況がまとめられるのは、「第4回自然環境保全基礎調査動物分布調査報告書(哺乳類)」(環境庁,1993a)を待つことになる。この報告書と日本産野生生物目録(環境庁,1993b)によると、福島県に生息する哺乳類は45種・亜種であり、そのほかに1種(ニホンジカ)の絶滅が報告されている。
改訂版レッドデータブック(環境省,2002)によれば、現在日本列島および周辺海域に見られる在来哺乳類は9目30科87属148種で、これに6目14科19属21種の移入種(国内移入種を含む)を含めると、9目35科98属165種になる(重複種は除く)。これよりレッドデータブック(環境庁,1991)と同じようにクジラ目とジュゴン目を除き、ヤンバルホオヒゲコウモリとリュウキュウテングコウモリを追加した126種(202種・亜種)が改訂作業の基礎となっている。
ただし、移入種等として評価対象から19種(22種・亜種)を除外しているので、日本産哺乳類のうち評価対象とされた在来種は107種(180種・亜種)である。なお、今回の作業において福島県で評価対象とした哺乳類は、これからさらにアザラシ類を除き、これまで生息の確認された7目15科47種である。