研究紀要第23号 幼児教育の研究 公立幼稚園における心身障害児の実態調査および人物画テストによる性格診断の考察 - 001/015page

[検索] [目次] [PDF] [前][次]

公立幼稚園における心身障害児の実態調査
および人物画テストによる性格診断の考察

1 はじめに

 昭和50年5月末,本県公立幼稚園(185園)を対象に,知能検査・性格検査などの各種心理テストの実施状況を調査し分析を加えてみた。この調査の結果から,これらの諸検査を実施している幼稚園は,皆無に近いことが分かったが,その理由については定かでない。推測するところ,日々の集団生活指導やその他の教育計画の実施に追われ,心理テストの必要性は分かっていても,実施できないでいるのが現状ではないだろうか。しかし,客観的な心理テストを実施しないで,教師の主観的な判断に終始してしまってはいささか問題が残る。何らかの方法により,実施するよう図っていかなければならないだろう。

調査書のアンケートの中に, 「性格検査のよい方法を知りたい」とする意欲的な意見のあったことは望ましいことである。幼児の性格検査を実施する場合,集団的な検査では,信頼度の少ないものになるきらいがあるし,個人的な検査では,実施時間や処理時間が多くかかり余り効率的でない。そこで,現場に適し易いテストの一つとして,H・F・D(人物画テスト)をとりあげてみた。H・F・Dについては,現場では余り研究がされていなかったようであり,理解も不十分であったように考えられる。しかし,このテストには次のような長所があるので是非実施を望みたい。

○手軽に実施できること。○集団でも実施が可能であること。○結果の処理が簡単であること。○知能ばかりでなく,情緒的な面や脳器質障害まで分かること。

 特に,口がきけない子ども,耳の聞えない子ども,さらに年齢の低い子どもでも絵(へたでもよい)がかけさえすれば,テストが実施できるのも大きな特徴である。また,H・F・Dの対象は,5歳児から9歳児までが適しているといわれている。

 この研究では,本県公立幼稚園における発達遅滞および情緒障害の実態と対策を述べ,さらに,H・F・Dの手引となるように考えたものである。

 現在,心身にかなり異常のある幼児は,入園の対象からはずされ,家庭保育のみの孤立した生活を過ごしていると聞くが,昭和54年4月1日から養護学校が義務制となり,それに伴って,幼稚園は傍観的存在でいることはできなくなるだろう。むしろ積極的に受けいれて,指導することが必要になってくるのではないかと思われる。

例えば,情緒障害の幼児が入園して,集団生活上の秩序維持などの面で困るからといって,その親と子を責めても効果は全く期待されない。その原因を追求し,解決策を具体化することが急務となる。そのような意味で,行動の背景を知るには,H・F・Dが比較的よいとされている。しかし,この研究報告では,理解に困難な点や意味の不明な点が多くあるであろう。したがって,参考文献により研究を深めるように希望する。脳器質障害のように判定の難しいものについては,ベンダー・ゲシュタルト・テストを研究されて,利用すれば一層はっきりすると思われる。

 幼稚園の内容が中心となっているが,H・F・Dについては,小学校児童にも利用できることを強調しておきたい。なお,一つの心理テストで,幼児や児童の知能,性格を断定しないことが大切である。

2 調査の目的・対象・時期・内容・方法

(1) 調査の目的

 この調査は,公立幼稚園における各種心理テストの実態と異常行動児の実態を調査し,今後の幼児教育に最も適した方法などを研究していくための基礎資料を収集することを目的とした。

(2) 調査の対象

 県内公立幼稚園185園を対象にした。


[検索] [目次] [PDF] [前][次]

掲載情報の著作権は福島県教育センターに帰属します。
福島県教育センターの許諾を受けて福島県教育委員会が加工・掲載しています。