研究紀要第35号 学習指導に関する研究 - 020/066page

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温度計の特性と使用例について

土 田  直 枝 
(科学技術教育部)

1 はじめに

 温度を測るということは,私達にとっては余りにも日常的なことである。
 暑さ寒さを感ずると室の壁掛型温度計の目盛を読み,頭が痛ければ体温を測ると言うように温度計は私達の身近かな計測器になっている。

 しかし,このあまりにも慣れすぎた温度計測は理科教育の場において,科学の方法として温度を測るということになると自己流で安易に目盛を読むだけですませてしまってよいものではないと考える。

 ここでは,棒状温度計とサーミスタ温度計をとりあげて,温度計の特性のいくつかを明らかにし,計測にあたっては,これらの特性を念頭に入れた使用法とデータ整理にあたってほしいと考えてこのテーマを選んだ。
 以下に述べる特性は温度計使用の当然の注意事項とされてきたものばかりで,格別目新しいものではない。

 また,個々の温度計のもつ個有のくせ,個有誤差もある。従って,これからでてくるデータはあくまで実験例として認識していただきたいものである。
 また,使用例についても,まだまだ工夫の余地があると思われるが,一つの足がかりとして見ていただければ幸いである。

 

2 温度計の特性(応答速度)

 温度計を被測定物の中に入れたとき,時間の経過とともに温度計の指度が被測定物の温度に近づいてゆく状態を見るものであるが,この際,指度が真の温度を示すにはかなりの時間がかかる。(または無限に近づくが真の温度は示さないだろうと考えてもよい。)
 このため,応答速度を比較するのに時定数という値で比較している。

 室温T1に保った水に入れておいた温度計を温度T2の湯の中に入れ,温度計の指示がt 秒後にTになったとすると,
   T=T2-(T2-T1)exp(-t /τ )
の関係がある。

 このτ を時定数というが,一般には, T2−T1の63.2%だけ指示値が増減した点までの時間で表わしている。
 この時定数は電流計などの場合は計器そのものにつけられる特性値であるが,温度測定については一つの目安としてしか考えられない。

 温度測定には流体の攪拌,空気などの場合は測定時の風速,被測定物の熱伝導率などがτの値を大きく変えてしまうからである。
 従って応答速度とか時定数を云々するときは測定物と測定法,測定条件を付記する必要がある。

(1) 10℃の水中から84℃の湯に温度計を入れかえたときの応答

 図1でわかるようにアルコール温度計では55秒,水銀温度計では25秒経過しないと真値に近い指度は示さない。
 サーミスタ温度計の場合は図には示さなかったが3秒である。

 この実験で84℃の湯はマグネチックスターラーを用いて常時撹拌していた。
 また温度計がじゅうぶん浸るように深さ145mmのポリ容器を使用した。
 表1には時定数を示し温度計の種類によって指示遅れの比較をしてみた。


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