研究紀要第37号 登校拒否に関する研究 - 006/022page
U 登校拒否児と学業不振・不適応
1.はじめに
当教育相談部に訪れる登校拒否児には,学業不振・不適応から集団不適応を起こし,それが登校拒否に結びついていると思われる者が多い。
一般に,学習結果が本人の知的能力(測定された知能から推測される学習可能性一成就値)にふさわしい水準に達しない状態を「学業不振」とよび,併発的に,種々の問題行動を伴って,学業生活に適応できない状態を「学業不適応」とよんでいる。
そこで,学業不振・不適応を問題にする場合には,知的能力とのかかわりあいが重視されてきたが,登校拒否との結びつきを考える場合には,それだけでなく,性格的な面とのかかわり合いも重視しなければならない。なぜなら,知的な諸能力は,学業を行うための必要条件であるが,それを十分に発揮して,実際の学業生活を展開させるためには,本人の性格や環境条件などが,望ましい状態になければならないからである。
訪れる登校拒否児たちは,この知的能力を十分に発揮できないさまざまな要因(注1)や,登校拒否の心理機制(注2)を持っている。それらが複雑にからみ合い,拒否反応を起こしている。
このように考えてくると,登校拒否という現象の底流には,一様に,性格・情緒の問題,特に本人の性格の発達不全の間題がかかわっていることに気づくのである。
そこで,本報告書においては,
(1) 昭和53年度来所した学業不振・不適応による拒否児20例の性格分析から,どんな性格特性が学業不振・不適応を起こし,登校拒否に結びつきやすいのか,を考察してみた。
(2) さらに,そうした性格形式の背景となる親の養育態度はどのようなものなのかを,これらの母親に焦点をあて,診断し,追究してみた。
(3) これらを通して,登校拒否児と学業不振・不適応との関連についてまとめてみた。注1 学業不振・不適応の原因
〈主体的要因〉
@ 身体の障害(視覚,聴覚,運動機能,体力等に関する障害等)
A 性格の問題(意志薄弱,劣等感,過度の不安や緊張,注意散漫等)
B レディネスの不足(意志薄弱,劣等感,過度の不安や緊張,注意散漫等)
C 学習方法,習慣の不適切
D 学習意欲・興味の不足等〈環境的要因〉
@ 学校・学級環境の障害(施設設備等の問題だけでなく,教師や友人との人間関係,学級のふんい気,教師の指導法等)
A 家庭,近隣環境の障害(施設設備等の間題,本人の学習に対する家族の無関心,過干渉,過剰期待等)注2 登校拒否児の心理機制
@ 友人などに対する劣等感や自己に対する否定的な感情が支配的で,能力に対する評価や役割,期待像に混乱がみられ,その結果,集団適応に際して不安や葛藤があるもの。
A 家から離れることが不安であり,いつまでも母子の共存関係を持続させたいと思っているもの。
B 完全主義的傾向を背景とする強迫状態に陥り,さらにこれらが慢性化して,登校拒否を合理化しているもの。
C 性格の弱さからくる防衛的心理をいつも持ち,失敗を恐れ,不安反応を形成しているもの。
D 本格的な神経症を併発しているもの。等。2.学業不振・不適応による拒否児の性格特性