研究紀要第38号 学習指導に関する研究 - 048/081page

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2 郷土の音楽の教育的意義(教育理念)

(1) 豊かな音楽的感受性と愛郷心の育成

 郷土の音楽には,わらべうたや民謡,郷土芸能など多種多様なものがあり,それぞれによさを持っている。生活の中から歌い継がれてきた音楽には,郷土の人々の心があり,素朴な美しさや独特の楽しさがある。
 郷土の音楽の学習を通して,郷土の人々の心と伝統的な郷土の文化について認識を深めるとともに,日本人としての豊かな感受性を育てる。

(2) 音楽文化の継承

 郷土の音楽は,郷土の風土や生活の中で,先人の創造的な精神活動によって創り出された貴重な音楽文化である。これらの音楽文化を次代に伝承・発展させることは,教育の重要な使命である。

(3) 音楽文化の創造的活動への寄与と参加

 新たな音楽文化の創造は,常に伝統的文化の上に創造される。教育においては未来への展望の上に立って,生徒たちが直接間接に音楽文化の創造に参加し,寄与できる素地を培っておく。

3 福島県の民謡

 福島県は全国第3位の面積をもつ広大な県である。南北に走る阿武隈山地・奥羽山脈・越後山脈によって,東から浜通り,中通り,会津の三っの地域に区分されている。この三つの地域は,それぞれ気候風土の著しい相違があり,人々の気質や風俗習慣,文化にもそれぞれ特徴を持っている。

(1) 本県民謡の特徴

 民謡の宝庫と呼ばれている東北地方において,本県の民謡もよく知られているものが多く,全国的に愛唱されている。
 特に,すぐれた民謡の地は,宇多(うた)の国と言われた相馬地方であり,雪深い山国会津である。
また,いわき地方にも,数多くの民謡が歌い伝えられている。

@ 本県の民謡の特徴は,まず,越後人の影響を受けていることである。
ア 相馬地方〜天明の飢饉(天明3,4年)後,相馬藩復興のため越後,越中,加賀など北陸地方から多くの移民を招いたこと。
イ 会津地方〜越後から酒所会津へ,多くの杜氏や油締めの職人が入ったこと。
ウ 本県の盆踊りで歌われる甚句や盆踊り歌は,越後の甚句の系統に属するものが多いこと。

A 民謡の種類からも分かるように,民謡は労働から発生した作業歌が多くの数を占めている。本県の民謡も,それぞれの地域の産業と生活のかかわりから,特色ある民謡が生成し,伝承されている。

ア 水産業に関するもの(浜通り)
  大漁歌い込み,船甚句など
イ 農業に関するもの(全県)
  田植歌,桑摘み歌,餅つき歌,麦つき歌,草刈り歌,柴切り歌など
ウ 農産加工品に関するもの(伊達・会津)
  機織歌,紙すき歌,酒屋歌など
エ 交通に関するもの(相馬・会津)
  馬子節,馬子歌など
オ 鉱業に関するもの(いわき・会津)
  炭坑節,石切り歌など
カ 建築土木に関するもの(浜通り・会津)
  杭打ち歌,土突き歌,地固め歌,矢送り歌,左官歌など

B 作業歌以外では,祝い歌にすぐれているものが多く,全県に分布している。なかでも,「相馬二遍返し」,「いわきめでた」,「会津松坂」,「会津めでた」は,よく知られている。今日婚礼の祝い歌となっている長持歌は,歌詞旋律とも類似しているものが,全県的に歌われている。

C 子守歌は,二つの種類に分けられ,母親や肉親がやさしく静かに歌って眠りに誘う「眠らせ歌」と,奉公人が雇主の子どもを守りする時に歌われた「遊ばせ歌」の二つがあるが,本県の子守歌はいずれも存在する。しかも「江戸の子守歌」から派生したものが多い。


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