研究紀要第41号 学習指導の個別化 個を認める研究 - 030/044page
なかったけれども,A児が発表した事実を取り上げ,「きょうは,よくしゃべったね。」と認めてやり,「もう一度言ってごらん。」と大きい声で言い直しさせたことにより,A児は,少なからず自信を持ったにちがいない。その後の学習でも,よく観察していると,挙手はできなかったが,発表の意志表示らしい動きが数回あり,となりの子への確かめの行動などが見られた。このような場合には,その後のA児の動きや表情をよく観察することにより,アフターケアというか,A児に適した場面での再度のはたらきかけがあってもよいのではないだろうか。
2.観点2,B児へのはたらきかけについて
机間巡視により,教師は,学習の診断・評価ができるが,同時に,学習の補強・深化をはかる個別指導も可能である。ここでは,B児へのはたらきかけが,机間巡視による個別指導→指名による発表の形でなされたが,この方法は,児童に,発表への自信を持たせることができるという点で効果のある方法であろう。その際,「先生に指導を受けたんだから,教えてもらったんだから,発表できてあたりまえだ。」といった受けとめ方をみんながしたり,あるいは,みんながしていると本人に思わせたりさせない配慮が必要であろう。その点で,本時のB児に対するはたらきかけは,「Bさんの話をちょっと聞いてみたら,とってもいいところに気がついていたので,発表してもらおう司という呼びかけによってなされたが,これは,学級全体の中での個人へのいたわりという点で適切であった。
3.観点5,C児へのはたらきかけについて
授業の計画では,指導内容の3の(4)「ほかの二つの場面から,二人の性格を確かめさせる」段階でC児に対するはたらきかけを行う予定であったが,実際の授業では,机間巡視の中での個別指導のみにとどまり,発表させることはしなかった。このように,流動する授業展開の中では,状況に応じて,本時の抽出児(はたらきかけの対象児)を変更することも大いにありうることである。
ここでは,O児やH児に対するはたらきかけについて検討してみよう。あんまり発表の得意でないO児に対して発表の機会を与え,国語の学力のあるH児に対しては,「………欲ばりな人だと思います。」という発言で終わらずに,なぜ,そう思ったのかを発表させている。このように,それぞれの児童の,個に応じたはたらきかけをしようとする教師の意図がうかがえる。
ただ,この場合,本時の目標である“せりふのやりとりから,二人の性格を読み取る”にせまるためには,「これこれのせりふからこういう性格がわかる」という発表にとどまらないで,「このせりふのこのことばから」というような具体的な文章表現にたちかえって発表させたいものである。たとえば,O児のとらえた権八のせりふ,「ばか言え。自分の物は自分でさがすのが当たり前だ。さあ,はよう入らんか。」の中では,「自分の物は自分でさがすのは権八の言うとおり,当たり前ではないか。」とゆさぶりをかけることによって,へりくつでいやなことを藤六におしつけてしまおうとする権八のずるがしこい性格にせまらせたいし,「さあ,はよう………。」ということばに,人のよい藤六を早く言いくるめてしまおうとする権八の心が出ていることにも気づかせたい。
これらは,O児との問答形式でせまることもできるし,他の児童に投げかけてもいいだろう。また,H児のとらえた権八のせりふ「お前,このうるしのこと,だれにも告げちゃならんぞ。」の場合は,その前の権八の(しばらく考えているが,とつ然どなる。)というト書きと結びつけて,実際に表現させたいし,「本当に権八は,うるしを二人のものにしようと考えているのか。」と,他のせりふと関連づけて,本心は独り占めにあることを読みとらせたい。
4.観点7,D児へのはたらきかけについて
D児へのはたらきかけは,本時学習のまとめとしての朗読をさせることにあった。これは,学力はあるが,どうも国語がにが手だ,読書もきらいだというD児に対して,朗読の役割を与えることによって,国語学習のはげみにしたい教師の意図がうかがえる。そして,本時においては,それが効果的になされたようである。D児とE児の朗読