研究紀要第52号 「教育課程の実施に関する研究」 -019/090page

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歌う心を育てるものとなる。このような家庭の音楽的環境に支えられ育てられた歌う心は,学校における歌唱学習を通して一段と洗練され,音楽的感覚と表現技能はより一層高められるのである。そして,自らの心で感じ取ったものを,更に美しい声で歌唱することによって,児童の表現意欲を満足させることになる。こうした歌唱指導を積み重ねることにより,児童は,歌唱する喜びを一段と感じ取り,将来とも,広く音楽を味わおうとする自主的な態度は育つものと思われる。

3.歌唱指導の内容からみた,小・中・高の一貫性

音楽の学習指導要領では,その目標及び内容については,小・中・高の一貫性をもたせるとともに,児童の学習負担の適正化や,内容の適時性に配慮しながら,各学年段階で確実に身に付けるべきことを示している。そして,音楽を愛好する心情の育成を指導の究極的なねらいとしている。音楽における様々な活動の中で,歌唱はその中核になることの意義を踏まえながら,教師は,技術的な面の指導に偏ることなく,創造的な表現を行うことを目指して指導することが大切である。ややもすると,表現の能力を伸長させることにのみ心を配りがちになるので,歌唱の美しさ,楽しさを感じ取らせて,自ら進んで表現しようとする意欲を育てることを見失ってはいけない。歌唱表現の能力を伸ばすことは確かに重要なことではあるが,そのことだけが歌唱指導のすべてではない。

ところで,次の系統表は,音楽科及び各学年の目標と,表現活動における歌唱の指導目標と内容を,小・中・高の一貫性を図りながら表したものである。

第1図に示されているように,音楽の学習指導は,小学校の1年から音楽についての美しさを感じ取らせながら,興味・関心を持たせることであり,音楽経験を生かして,生活を明るく楽しいものにする態度と習慣を育てることを大きな目的としている。いいかえれば,表現活動の一分野である歌唱の学習を通して音楽性を培うとともに,一貫した歌唱指導の目標とその内容によって,将来とも歌唱を愛好する心情を育て,豊かな情操を養うことをねらいとしている。

従って,歌唱学習についての興味・関心が高まり,自ら積極的に表現しようとする態度が育てば歌唱の能力を高める手だてを工夫するなどして,結果として,歌唱の技能も伸びてくるものと考える。いわば,自ら進んで表現活動をする態度と,歌唱の技能は,歌唱学習をより豊かに成立させるための車の両輪ともいえる。この双方が,互いに深いかかわりを持ちながら,小・中・高ともに一貫性をもって究極の目標となる“音楽を愛好する心情を育て,豊かな情操を養う”ことを,目指さねばならない。このとき,教師は,各学年の児童の実態を踏まえながら,発達段階に応じて,創意工夫を加えた楽しく豊かな歌唱指導を展開することが極めて大切である。

ここでは,歌唱の能力に関して指導する内容を示した。各学年の歌唱学習で,その成果を身に付けることによって,音楽にふれる喜びを感じ取らせることが必要である。そして,広く他の領域とかかわりを持つ,有機的・統合的な指導が望まれるのである。

4.歌唱学習に関する調査と考察

これまでは,歌唱指導の意義や,学習指導要領における歌唱指導の位置づけ,及び,歌唱表現への興味・関心・態度と技能とのかかわりなどについて,基本的な考え方について述べてきた。

ここでは,それらの考え方に,更に実証的な追求を試みようとしたものである。

そこで,県内の小学校の児童について,音楽学習の中から,特に歌唱学習に関する調査内容を取りあげ,意識調査を行った。そして,その結果についての考察を通し,本県における歌唱指導上の問題を明らかにするとともに,その改善策を示すことによって,今後の歌唱指導法の改善・充実を図ろうとするものである。


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