研究紀要第52号 「教育課程の実施に関する研究」 -018/090page

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音楽の美しさを感じ取らせる指導

――小学校の歌唱表現を例に――

教科教育部  安部 哲夫

1.はじめに

明治15年,「音楽取調掛」の伊沢修二らによって,「小学唱歌集・初編」が刊行されて以来,「歌唱指導」は,我が国音楽教育の中核をなしてきた。そして,歌唱指導は,今日まで様々な音楽活動の表現を支える基盤として,大切な役割を果たしてきた。

近年,社会における児童をとりまく音楽的環境は,テレビ・ラジオなどのマスコミの発達によって多様化してきている。つまり,児童は色々な音楽を見聞きし,自らもレコードや楽器などを通して,それぞれが自由な楽しみ方で音楽を享受している。こうした中にあって,児童のあいだでは,自ら歌をうたって楽しむことがしだいに少なくなり,いわゆる“歌唱ばなれ”がおきていると思われる。

一方,学校における歌唱指導でも,音楽のもつ美しさ楽しさを求めた豊かな歌唱活動を望む声が高まる中で,“高学年における歌唱意欲の低下”,“変声期の児童に対する歌唱指導のあり方”“美しい声をださせる児童の発声法”などが指導上の課題として指摘され,これは,歌唱指導にみられる古くて新しい課題でもある。

従って,今こそ歌唱指導を通して,表現力の伸長を図り,音楽性を高め,将来とも広く音楽を愛好する心情を育てることは,歌唱指導の今日的意義ともいえる。

この研究は,小学校の児童について,歌唱学習への興味・関心を調査し,その結果を分析することによって歌唱指導上の課題を明らかにし,これからの指導のあり方や,改善・充実を図るために老察を試みるものである。

2.歌唱指導の意義

歌唱において,音楽性にあふれ,しかも,心からの高まりを表現するためには,“このように歌ってみよう”という意図が明確に表れることが大切である。つまり,児童一人一人が,自らの意志をもって,歌おうとする曲の言葉や歌詞の内容を理解し,曲想を感じ取り,その結果,どのような音色や大きさの声で表現しようとするかを,あらかじめ思いうかべることである。こうした意欲的な歌唱表現をすることによって,自分の感情を相手の心に強く訴えかけることになり,ここに,歌唱の根源的な意義があるものと考える。従って,教師は,児童の心を無視し,一方的に,あるいは,機械的に教え込んだ歌い方を強いるような表現活動は避けなければならない。児童が感じたままの気持ちを,そのまま声にだして表現することを認め,大切に育てることである。その結果として,児童は,更に美しく,音楽性豊かに歌おうとする意欲が高まってくることを期待し,そのときこそ,児童の発達段階を考慮しながら,より高度な知識や技能を身につけさせることが重要である。そして,誰しもが気軽に表現できる楽しい雰囲気の中から,歌唱を愛する心情は,はぐくまれるものと考える。

ところで,創造的な歌唱表現や,豊かな曲想表現を支えるものは,主体的,意欲的に歌おうとする態度であり,また,歌う心が育っているかどうかということである。この歌う心が育っためには,家庭における音楽的環境の影響が極めて大きいものと考えられる。家族で歌を楽しむ場面を多く体験し,美しい歌,楽しい歌を聴いたり歌ったりなどをすることが豊かであれば,そのことで心のやすらぎや,満足感を充足することができ,ひいては


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