研究紀要第54号 「教育課程の実施に関する研究」 -044/071page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

個の主体的な学習を促すための

サイクロトロン型学習理論による教材・教具

科学技術教育部   亘 理 尚 寛

1. はじめに

 学生や生徒の間に指示待ち族が増えたという。指示されたことは一応やりとげるが,自分から問題を見つけ出したり,研究課題を設定して,研究や作業に没頭するような人物は,あまり見かけなくなったというのである。
 アメリカのアスペン研究所(シンクタンク)の対日本人についての調査では,以前日本人は勤勉な民族であるという定評があって,信頼度が高かったものの,勤労者の仕事への信頼度は近年急激に下がりつつあると述べ,日本が国内的にもまた国際的にも危機が強まるであろうと推論している。
 欠乏した自然的資源の危機よりも,人的資源の危機の方が先に来るという予見は,国内の学者の間でもなされ,教育の場で解決すべきであるとの提言がされている。
 そこで,現在の理科学習の中にこの観点を生かしこみ,児童生徒の連続した発想能力を育成し,そのオリジナリティとバイタリティを生み出させるための,基礎的教育基盤づくりと指導法の研究を進めていかなければならないと考えている。
 筆者は,連続した発想能力について次のように考え,整理した。

(1) 必要な情報を収集し,分析したり活用したりする能力。
(2) 理論的に思考を展開する問題解決力。
(3) 個々の情報から,体系だった思考を組み立てる能力。
(4) 現代の総合的分析から,将来を見とおす能力。
(5) 未来の問題を先取りする能力。

 これらの中でも,(1),(2)に比べて(3),(4),(5)が身についていないと言う。前者は,組織化された理科学習の場で養われる認知的領域に含まれるが後者は,学習者自身の主体的な学習の深まりによって養われるものであり,認知的頒域に加えて,情意的領域の能力増大を求めるといった,いわゆる学習者自身の内部エネルギーの増大にかかわる問題となる。
 筆者は,この問題解決を日々の教育実践の中に求めて,教材自体のもつ科学的意味や重要なコンセプトを,生徒にきちんと系統づけた論理で提示することを提言(註1)し,実践をしてきた。
 さらに,教材の構成や分析で,学習到達度や習熟の程度についての段階的な視点を明らかにし,到達度に応じた分岐型学習指導形態の開発を行い,小集団学習の中の指導の個別化をめざした授業の研究実践(註2)を行った。この研究を進めている中で新たに生じてきた課題は,筆者自身の理科教育にかかわるフィロソフィの確立であり,更に,自己に向けての先に掲げた能力面でのチェックであった。
 このことは単なる教育理論の調査研究から抜け出し,原理的な理論を開発構築することに結びつかなければならなかった。そして,系統化,計画化から実践へ,そして検証という一連の行動を進めてきた。この理論をサイクロトロン型学習理論モデルと名付け,論文を発表(註3)した。これについての解説は,文部省視学官及び教科調査官が記述(註4)している。
 次に生じた課題は,学校の実態や生徒の実態との関連と,調和のある学習指導の体系作りであった。これは筆者の前任校での授業実践と授業研究による授業の評評を軸にしての取り組み(註5)となった。
 そして更に,サイクロトロン型学習理論をもとにして,個を生かす小集団授業の見直し(註6)を行った。これを手がかりとして,新教育課程における理科学習の展開と取りくみ方(註7)(註8)についての考えを提示した。
 これらの一連の研究の流れは,実践を土台とし


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は福島県教育センターに帰属します。