研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -000-01/044page

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ま え が き

 今日の学校教育が求めている「人間性豊かな児童生徒の育成。は,教育課程の基準の改善のねらいにおける大切な一つであるが,そのためには,すべての児童生徒が心身共に健やかで,能力や個性に応じた成長を願い,人間としての自己確立と価値ある自己実現が図られるような指導が望まれている。
 日々の教育活動を進めるうえで重要なことは,児童生徒の立場になっての共感的な個人理解である。現在の子供たちは,複雑な社会環境の影響や家族,学校での人問関係の中で,さまざまな問題をかかえている。このような児童生徒の理解を深めるためにも,教育現場ではカウンセリングの技法を積極的に取り入れた教育活動が必要とされてきている。教師は,児童生徒の指導・援助のプロセスにおいて,常に心とからだの健康状態・知能,学力の状況・性格・環境面などの理解につとめ,他方,児童生徒に対しても,「今ある自分の問題」に気づかせることが極めて大切なことである。更に,これらを通して,一人一人の子供の興味・関心・悩みなどについて適切に援助し,学習に積極的に立ち向かう価値志向へとかりたて,学習意欲を高めなければならない。
 しかしながら,学習意欲については,さまざまな定義がなされ,研究されているにもかかわらず,学習意欲の問題に対処できる適切な処方隻はいまだに困難とされている。教育心理学や学習心理学では,「学習効果。をあげるための第一歩として学習意欲を引き起こすことを強調し,どうすればその意欲を引き起こし,それを高められるかを「動機づけ。の問題として研究が進められている。しかし,学習指導などで諸条件を整えたとしても,もっと根深いところで意欲を失っている児童生徒に対しては,「動機づけ。だけでは解決を図れない場合がある。これらの解決にあたっては,どうしても心理的治療へのアプローチが必要になってくるのである。
 本研究は,これら現場の二一ズに応じる意味合いから,「学習意欲を高める心理的治療へのアプロ一チ。に向けて,2年継続研究に取り組んだのである。第1年次は,学習意欲をとらえる因子として東京学芸大学下山グループの研究を生かし,動機づけや指導(治療)上,学校現場で用いることが,有効と考えられる心理的治療をどのように進めていくかを明確にしてきた。
 第2年次の本年度は,第1年次の理論研究を基礎にして,小・中学校から学習意欲に問題を持つ児童生徒を抽出して,学習意欲を高める心理的アプローチに取り組み,この度,その成果をまとめた次第である。教育現場にあっては,学習意欲を失っている原因を多次元にとらえたり,そのための観察,面接の仕方や,これらをもとに治療仮説を立て,カウンセリング的アプローチを中心に種々の心理的治療を組み合わせ,一人一人の児童生徒に最も適した方法を見いだし,実践の手がかりとしてご活用いただければ大変幸せである。
 おわりに,本研究を推進するにあたり,協力校としてご快諾,かつ,惜しみない実践研究をいただいた,福島市立鎌田小学校・福島市立福島第三中学校に対し,深甚なる敬意を表するものである。

    昭和59年3月

福島県教育センター所長   舟 山  昇


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