研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -010/093page
(7)基礎的目標(到達目標)未達成者に対する手だて
完全習得学習において,大事なことは,(6)で示したような形成的テストによって基礎的目標が未達成であると判定された児童に対して,適切な手だてをあらかじめ準備しておくことである。この研究で取り上げた小単元については,それぞれの目標の未達成者に,次のような補充的学習をさせることとした。
実際には,上記のような補充的学習問題を目標ごとにカードにしておき,それぞれの目標未達成者に配布する。教師は,補充的学習のための時間を十分に与え,必要に応じて個別に指導する。最終的には,カードを提出させて点検することになるが,それでもまだ目標が達成されていないと考えられるときには,さらに個別指導をほどこす。
こうして,基礎的目標に関しては,すべての児童が「達成」となるまで,きめ細かくねばり強い指導を続けることが大事である。
これまで,いろいろと検討を重ねてきたように,完全習得学習のための具体的方策として,最も有効適切なものは,形成的テストの実施とそれにひき続く目標未達成者の補充的学習である。
これに対して,あるいは,「いつも同じ児童が目標未達成者になるので,学習意欲を失ってしまうのではないか」という批判がよせられるかも知れない。確かに,ある小単元で目標未達成者になった者が,次の小単元でも,またその次の小単元でも,目標未達成者になるようなことはあり得る。しかし,形成的テストは,児童の成績を評定するためのものではない。あくまでも,完全習得のための一方策なのである。従って,児童にはその点をよく理解させておき,学習意欲の減退につながらないように配慮することが大事である。なお,たとえ目標未達成看であっても,「自分は,○○の目標を達成したが,○○の目標を達成できなかった。だから,○○のことをしっかりやれば,全目標が達成できる」という具合いに,努力の方向が明確になるので,意欲的に補完的学習を行うであろうことは,十分予想できる。
一方,全目標を達成した者が,自信を持って次の学習に取り組むようになることは,言うまでもない。5.個性的な社会認識を育てるための具体的方策
社会科において「一人一人を育てる」とは,すべての児童に基礎的目標を達成させようとする完全習得学習を意味するだけではなく,それぞれの児童の個性に応じた社会認識を深めることをも意味していた。ここでは,個性的な社会認識を育てるための具体的な方策について検討を加えたい。(1)一人一人の興味・関心に基づく選択学習
人は誰でも,自分が興味・関心をもっていることについては,他から言われなくても,工夫をこらして調べようとするものである。だから,学習を促進する要因として,学習内容に対する興味・関心は大きな意味を持っているのである。