研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -011/093page
ところで,この興味・関心というものは,人によって千差万別であり,その意味では極めて個性的なものである。個性的な社会認識を育てようとするとき,われわれは,まずこの事実に目を向ける必要がある。児童が,他からのおしつけでなく,自分がおもしろいから調べているのだという意識を持ったとき,その学習意欲は,いやがうえにも高揚するのである。
そこで,小単元の中に,児童の興味・関心によって,学習分岐をする場面を設定することが,個性的な社会認識を高めるための契機になるのではないかと考えられる。より具体的に言えば,小単元の目標につながるいくつかの小さな学習課題を設定し,児童がそれぞれの興味・関心によりそのうちの一つを選択することによって,学習分岐を行うのである。以下,このような選択学習について,学習課題の設定の仕方,学習課題を追究するときの学習形態及び学習課題追究過程における教師の指導の在り方について考察を加えたい。1 学習課題の設定の仕方
いかに,興味・関心が学習意欲の高揚にとって大事であるからと言って,児童の心のおもむくままに学習課題を設定するわけにはいかない。児童が取り組むべき学習課題は,その追究を通じて,おのずから小単元目標の達成へとつながるものでなければならない。すなわち,次の図の学習課題A〜Cのように,小単元の学習課題に包含され,しかも,小単元目標の達成を目指すものでなければならないのである。
とは言え,学習課題の設定が教師の一方的なおしつけになっては,興味・関心に基づく選択学習の意味をなさないことになってしまう。要は,教師が学習させようとすることを,いかに児童自らの課題に転化させるかが問題なのである。そのためには,児童のもっている疑問や好奇心を掘りおこし,それらを小単元目標とのかかわりで焦点化することが大切である。
小単元の学習課題 ― 学習課題A → 小単元の目標 ― 学習課題B → ― 学習課題C →
従って,学習課題は,教師と児童の話し合いの中で設定されるべきであり,しかも,児童たちが自分たちで学習課題を設定したのだという意識を持つことができるような指導が望まれる。2 学習課題追究の学習形態
まず,課題追究の活動を個別に行うのか,小集団を単位に行うのかが問題になる。一見,個別に追究活動を行うのが望ましいように見える。しかし,個性的な社会認識を育てるということから考えれば,常に自らの考えを他の人の考えと対比させながら練り上げていくことが大事であり,ここでの個別学習は適当ではない。
小集団による追究活動をとるにしても,次の二つの学習形態が考えられる。
●個々の児童が,それぞれ学習課題を選択し,同じ課題を選択した者が集まって小集団を作る。
●あらかじめ,グルーピングされてある小集団(学習班)が班内で話し合い,いずれかの学習課題を選択する。
興味・関心に基づく選択学習という趣旨から考えれば,前者のほうが望ましいと言えよう。ただ,その場合,どのような組み合わせの小集団になっても,課題追究のための十分な力量を持つことができるということが前提になる。こうしたことを考慮に入れれば,まずは後者の学習形態をとり,徐々に前者のような形態でも学習できるように,高めていくことが最善であろう。従って,本研究においても後者の学習形態をとったのである。3 教師の指導の在り方
このような追究活動を行わせる場合,教師が前面に出て児童を引っばるというようなことにならないように注意しなければならない。児童たちが自らの頭と手足を使って課題を追究することが,この活動固有の意義だからである。