研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -017/093page
身近な素材を生かした教材・教具の開発と指導
―小学校理科「物質とエネルギー」教材を中心に―
福島県教育センター 大 室 幹 男
I.はじめに
小学校理科の学習は「自然の事物・現象についての直接経験を児童の心身の発達に応じて意図的計画的に積み重ね,自然を調べる能力と態度を育てるとともに,自然の事物・現象についての理解を図り,自然を愛する豊かな心情を培うこと。」を目標としている。
すなわち,理科の学習指導を進めるにあたっては,できる限り自然の事物・現象に触れさせ,直接経験を通して探究させる授業が特に期待されている。
このような学習の累積の過程の中で,次第に自然に親しむ態度や心情が芽生えてくる。すなわち,学習の各段階を通し共通点や違いを見い出したり,疑問や問題点を発見したりする中で徐々に学習内容が定着していくものと考えられる。また,こうした学習過程をくり返すことで,児童自らが課題を見つけ,解決に努めようとする内的エネルギーの高まりを期待することができ,それが自ら進んで自然を調べる能力や態度を育てることに結びついていくものと考えられる。
このような趣旨に基づき,具体的に授業を行うとき,限られた学校備品の数の問題,及び児童の探究的な学習のプロセスに合わない場合も多いなどから指導が困難であることが多い。
そのため,本研究においては,児童の身の回りにある身近な素材を生かし,新しい教材・教具を開発することにより解決を図ろうとしたものである。U 研究の趣旨
前述の趣旨をふまえ,学習指導を展開することを考えるとき,小学校理科「物質とエネルギー」教材の指導においては次の様な問題点を指摘することができる。1.情報量過多な社会に生きる現在の児童には,身の回りの自然に対して断片的ではあるが多量の知識を持つため,新題材に対して新鮮さがなく興味・関心があまり湧いてこない場合が多い。
たとえば、小学校第1学年「磁石あそび」について見れば,これらは日常生活の中で多く見たり触れたりしているため,磁石は鉄につくことなどは知っている。キド シンゴ しかし,児童はこのことにとどまり,更に発展し,「磁石がつかないものがあること。」や「磁石は間に紙などがあってもはたらき,鉄を引きつける。」ことなどを探究しようとする意欲が生じない場合が多い。2.「物質とエネルギー」教材においては,教材・教具の数や費用などの理由から,まだまだ教師が教えることを主体としたものが多く,自主的・主体的に児童に探究させたり,学習の個別化を図ったりすることが困難である場合が多い。キド シンゴ たとえば,電動真空ポンプや着磁・消磁器などは学校に一台限りとなることが普通であり,それを用いて児童に自由に学習させることは困難である。