研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -032/093page
道徳的実践力を育てる道徳の時間の指導
―児童の心に 感動の高まりを求めて―
経営研究部 渡 部 悦 夫
1.はじめに
道徳の時間の役割は,学習指導要領にも述べられているように,「道徳教育の目標に基づき,各教科及び特別活動における道徳教育と密接な関連を保ちながら,計画的・発展的な指導を通して,これを補充,深化,統合し,児童の道徳的判断力を高め,道徳的心情を豊かにし,道徳的態度と実践意欲の向上を図ることによって,道徳的実践力を育成すること」である。
従って,道徳の時間の指導(=授業)を進めるにあたっては,教師が児童へ一方的に徳目を押し付けたり,話L合いが児童の単なる生活経験だけに低迷Lたりすることがないように考慮し,内面的な深まりを目指さなければならない。
そのため,児童が道徳の授業に主体的に取り組み,道徳的価値を真に自覚することによって望ましい道徳性を身に付けていくことができるよう,授業の準備から実施後までの検討を通Lて,絶えずよりよい指導方法を求めていくことが望まれる。
特に,導入の仕方に変化を持たせることによって道徳の授業への興味や関心を一層高めたり,発問を吟味することによって道徳的な問題に対する感じ方や考え方を深めたりするなど,児童の実態に応じた工夫をしていく必要がある。
以上のことは,既に十分認識され,道徳の授業を充実させるための努力が重ねられているといえる。
しかしながら,道徳の各種研究会で授業についての話し合いが行われる際は,同じような問題が依然として繰り返し出されているし,当教育センターの道徳講座の研究協議において疑問や質問が集中するのは,必ずといってよいほど道徳の授業の進め方についてであり,道徳の授業が教科の授業よりも難しい一面があることを表している。
「道徳の授業の導入は,必ず生活から入らなければならないのだろうか。」
「私の道徳の授業は学級指導と同じだと言われた。」
「国語(文学教材)の読解指導と同じになってしまう。」
「価値の一般化というのは,教科の指導での応用発展と同じに考えてよいのだろうか。」
「1時間1主題では深まらないようだが…。」
このような大小様々な問題が広範囲に及ぶため全部を直ちに解決することは到底できないし,その中の一つであっても解決は難しいと思われるが研究会などで参観させてもらった授業と,私が学級を借りて実験的に行ってみた2年生の授業を対象に,次のようなことを中心に道徳の授業の進め方について考察をすることにした。
(1)導入のあり方について
(2)価値の一般化について
(3)資料の扱い方について2.道徳の授業の実践から
道徳の授業は,学級担任が行うのが原則である。なぜなら,教師と児童,児童と児童との望ましい人間関係を基盤としなければ成立しないのが道徳の授業であるし,学級の児童一人一人を最もよく掌握しているのが担任だからである。
従って,学級担任でない私が,全く見ず知らずの児童と道徳の授業をすることは許されないことだったとも言える。
このことを十分に承知した上で,あえて授業実践にふみ切ったのは,道徳の授業の問題点を浮きぼりにするとともに,改善のための手がかりを一つでもよいから得たいと考えたからである。