研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -084/093page
同一性について
−性的同一性測定尺度についての試み−(1)
1.はじめに
教育相談に訪れる児童生徒の数は,年々増加の傾向を示しており,その児童生徒のもつ問題も多様化してきている。問題の中でも,ここ数年,毎年上位を占めるのが不登校であり,その要因もまた多岐にわたっている。
その要因の中で,ここ数年特に注意をひくのが青年期の不登校児童生徒,すなわち小学校高学年から高校の不登校児の性的同一性(gender −identity)の問題である。
アイデンティティ(identity)という用語は,エリクソン(Erikson,E・H)による造語で,精神分析的自我心理学の中心概念であり,自我同一性(ego−identity),自己同一性(Self−identity)という形で良く知られている。
アイデンティティは,ラテン語のidentitas に由来するといわれ「正体」「それ自身」「その人本人」などの意味をもつといわれているが,精神分折では,極めて多義的,包括的概念として用いられ,「自己定義」「自己価値」「自己統合性」などといった意味に用いられている。
要するに,内的心理力動性の「自覚」ということができるであろう。
幼児期以来,部分的に色々な人々と同一化しながら成長を続けているわけだが,その部分的,一時的なものを統合しようとする機能が青年期になるとあらわれる。この機能や統合されたものが,アイデンティティである。 従って,アイデンティティは,青年期に至って最も明らかになり,あるいは,問題化する。
それが,青年期の葛藤や危機感として体験化されるわけである。
エリクソンの同一性の発達段階を次のように説明している。
(1)基礎的信頼感の獲得―口唇期に対応し,母子関係を通じて身体の安全と基礎的信頼感が生ずる。
(2)自律感と疑惑―肛門期に対応し,周囲の環境と自己統制との関連の中で,羞恥心や自己の価値に対する疑惑が生ずる一方,自律性が芽生える。
(3)積極牲の獲得と罪悪感の克服―性器期に対応し,幼児期後期において,家族関係の中で養われる。
(4)勤勉感の獲得と劣等感の克服―潜在期に対応し,児童期において学校や近隣関係の中で発達する。
(5)同一性の獲得と役割の混乱―思春期・青年期
(6)親密感の確立と孤独感の克服―初期の成年期において友情・性愛,競争や協力によって,自分を他人の中に見失い,また発見することによって養われる。
(7)生殖性の確立と沈滞感の回避―成年期にあって教育と伝統の思潮の中で,社会的分業と家事の共存とから生ずる。
(8)自我統合感の確立と絶望感の回避―成熟期にあって,あるがままに世界と自己を受け入れ自己と人間としての英知を獲得していく。
(新・教育心理学事典:金子書房)
性的同一性の獲得,即ち,「自分は男性(又は女性)である。」という自覚と,それをもとにした「行動の統合」などは,当然青年期のテーマであるわけだが,その点が大いに混乱し,葛藤が生じ,それをもとにした不適応行動としての不登校が生じていることがある。 しかし,実際に,性的同一性を測定する尺度は