研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -006/066page

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 反社会的行動の改善・解決を図るには,教師自 身の望ましくない対応のパターンとその背景とな る人間観の問題を解決する必要がある。同時に学 校全体に正義の教育が組織的,系統的に行われて いるかを振り返り,さらにそれを強化していくこ とも大切と思われる。

 ≪その他の留意すペきこと≫

 規範逸脱集団に対しては,それの人数,性格, 問題傾向,人間関係など,その集団のもつ特質を 正確に把握して対処することが大切である。多く の場合まず具体化の方向を目指すが,対処を誤 ると反発をまねき,結束をより強めさらに逸脱度 の高い反社会的行動を引き起こすことがある。この 場合は,とりあえず集団の存在を認め集団全体を 善導していく過程と成員個々の指導援助を並行し て進めていくことが適切と思われる。

 規範逸脱集団は勿論のこと,反社会的行動をもつ児童生徒はハイパワーな心理的エネルギーをもち,それを行使する。指導援助者はそれに対抗するかそれ以上の心理的なエネルギーを保持しなければ反社会的行動の改善・解決を図ることが困難である。そのためには,目的と役割を明確にした教師の指導システムの編成が必要である。このことには,問題の特性によって関係諸機関と緊密に連携することも含まれるのである。

 反社会的行動をもつ児童生徒や親,時には主体的な指導援助者である教師でさえも特定の否定的な考え方や行動に固定化されている傾向がある。この時,指導援助者は,そのような状態を別の違った視点から肯定的に見直すコミュニケーションの技法を用いて指導援助することが肝要である

  (5)コミュニケーションの技法

 反社会的行動の教育相談のためにいろいろな心理療法の理論と技法を用いることは当然であるが,最も基本になるのは教師と児童生徒との信頼関係をつくるコミュニケーションのもち方である。

 コミュニケーションには言葉の内容とともに,指導援助者の身体的動き,表情,声の調子,会話の全体的文脈が含まれる。治療面接においては,特にコミュニケーションの肯定的配慮が大切で,指導援助者は働きかけの総和がプラスになるよう調整することが必要である。

 その結果,治療関係の活佐化,ラポールの成立,信頼感の確立,情報の交換の増大が促進されるのである。「肯定的含蓄の働きかけ」はそのためのコミュニケーションの技法の一つである。

 具体策は次の通りである。

[1] 児童生徒が受け入れやすい状態をつくる。

 まず「受容」することである。児童生徒の話を「なるはど」「そうなの」「うん,うん」などの短い言葉であいづちを打ちながら,決してとがめたり批判しないでひたすら傾聴することである。 また,「私は酒はやめましたけど,タバコはなかなか・・」に対して「お洒をやめたことは大変な進歩だね」のように児童生徒の発言内容のある点を「是認」することも行う。是認されると親近感が高まり,指導援助を受け入れやすい状態になる。

[2] 相手が受け入れやすい状態になっているとき,相手が受け人れやすいところをはめる。

生徒「(うれしそうに)昨日父が僕に相談ごとを持ち込んで来たんです」
教師「君は親に頼りにされるほど立派な人物なんだね」がその例の一つである。

[3] ノーマライジング(normalizing)を活用する。

 ノーマライジングとは,「…なら,になる のは当然だ」のように,原因→結果の道筋を肯定 的に受けとめることである。例えば「あなたがそ のような気持ちなら,そのような行動をになるの はよくわかるね」がそれである。

[4] リフレーミング(reframing)を活用する。

 リフレーミンクとは,否定的にみられていることを別の角度から見直して,肯定的に表現しなおしたり,意味のあいまいなことの肯定的意味合いを強調することである。「私は何をやっても駄目なんです」に対して「自分を深く考えてよく反省するんですね」などがその例である。


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